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【要約記事】2025 EZO OPEN SCHOOL Vol.1 講師:木下斉さん
えぞ財団
2025年5月31日
北海道経済を「一国」として捉える:木下斉さんと富山さんの対談から見えてくる課題と展望
先日、街づくりや地域経済に詳しいゲストである木下斉さんをお迎えし、富山さんとの対談形式で北海道経済について深掘りする機会がありました。ファシリテーターは富山さんが務められています。
対談は、まず木下さんの自己紹介から始まりました。高校時代から東京大学周辺の商店街活動に関わり、高校3年生で会社を起業。以来25年ほど、「事業で稼ぐ街づくり」を考えて実践されてきたそうです。補助金に頼るのではなく、地域自身が産業を作り、雇用を生み出し、皆が未来を描けるようになることこそが本来の姿だと強調されます。戦後80年間、日本は「いかに金を取るか」ばかりを追求し、稼ぐ力が衰退してしまった現状を指摘。特に北海道は開発庁からの資金がなくなった後、稼ぐ力が伴わなかった課題に直面していると述べられています。都市プロデューサースクールを10年間運営し、550人の卒業生を輩出するなど、人材育成にも力を入れているそうです。
投資への「ダメ出し」文化が地域経済を停滞させる?
対談の冒頭では、ジャパネットの高田さんが長崎スタジアムシティについて語った長崎新聞のインタビュー記事が話題に上りました。富山さんは、スタジアムに人は集まるものの、中心部など他のエリアへの波及はまだ不十分だという高田さんの言葉 に触れ、「地元は一生懸命投資しているのにダメ出しみたいなことばっかり書いている」 状況を問題視しました。企業側はリスクを取って事業を進めているにも関わらず、「全部やれ」と言われているような依頼が多いことや、「地域創生は大事だが思ってる人が来ないじゃないかと言われても正直知らんがな」 という高田さんの本音が紹介されました。
木下さんは、この状況が「どんどん買いを増やす投資をやっている人たちをですね、盛り上げようじゃなくてですね、失敗させてやろうぐらいに思ってるやつらが多い」 ことの表れだと指摘。これは大変大きな問題だと述べます。富山さんは、これが北海道ボールパークFビレッジをやる際にも見られた現象だと共感します。当初は「札幌から離れて来るわけねえだろう」 と懐疑的な声が多く、経済界からも批判があったにも関わらず、成功するとそうした声が沈黙した。この「ダメ出し」文化が、投資や新しい取り組みを阻害している現状が浮き彫りになります。
福岡と札幌の比較:PR戦略の重要性
地域活性化の具体例として、福岡市の「天神ビッグバン」と札幌市の再開発が比較されました。富山さんは、福岡の「ビッグバン」という名前のインパクトを評価。札幌市の再開発投資額は実は福岡よりも大きい のにも関わらず、札幌市や北海道は「札幌ビッグバン」のようなキャッチーな名前をつけず、「シクシクとやってる」 状況だと述べます。木下さんは、行政がコンセプトを打ち出す際に、「絞りきれない」、角が立つことを恐れる といった事情があるとしつつ、福岡のように「ガンと」打ち出すことで、民間に「乗っからなきゃな」という気持ちを生み出し、問い合わせや投資を呼び込む効果があることを強調。役所のアナウンスメント効果は非常に大きい と指摘します。
福岡は天神・博多に絞り、さらにデザイン補助金などで個性的なビル建築を促している 点も評価されます。一方札幌は投資額は大きいものの、「控えめすぎる」。シェアオフィスなどは増えているものの、「とりあえず作っとこうみたいな感じになっちゃってる」 と、方向性のなさが課題として挙げられました。
北海道経済の現状:約2〜3兆円の資本が域外へ流出
木下さんは、北海道経済の現状をデータに基づいて説明します。道内GDPは約20兆円で、日本全体の約4%を占めます。実質成長率は1.5%(2022年度)ですが、道民所得は平均より低い状況にあると述べられます。地域活性化の最もシンプルな目標は「地域内の平均所得の向上」 であり、経済の「生産→分配→消費」のサイクルにおいて、分配される労働所得の平均値が上がることが重要です。
さらに重要な点として、北海道で稼いだ利益が、道内企業による再投資ではなく、道外本社への移転や道外への再投資に回っている構造を指摘。年間約2〜3兆円が道外法人に流出していると推計されるそうです。これは、東京に本社機能が集積し、そこから法人税収などが生まれる構造 の裏返しであり、地域にとっては稼いだお金が地域外に出ていく大きな要因です。木下さんは、米国のトランプ氏の関税論争を引き合いに出し、「地域で便利だからなんでも外のものを使えばいいじゃんみたいな発想」 は考え直す必要があると警鐘を鳴らします。地元の自治体が税金を使ってまでコストコのような大型店を誘致することは、「地域内の消費」 や利益が海外に取られてしまうことを自ら招く行為であり、「相当いかれてる」 と批判します。観光開発においても、資本、顧客、労働力が全て外部になると「経済植民地」 のようなモデルになりかねない点を指摘しました。
産業構造の課題とポテンシャル
北海道の産業構造を見ると、第三次産業(サービス業)が圧倒的に中心。第一次産業(農業など)は経済規模としてはまだ小さい。木下さんは、米価高騰の例などを挙げ、もしトランプ氏が北海道知事なら「米100倍ぐらい出してもう海外の金が入ってくるみたいな」 政策を打ち出すだろうとユーモアを交えながら、北海道の第一次産業は生産力があるのに「不当に評価されてない」、つまり生産額が低い現状を指摘します。これは、政府の価格安定政策や補助金に頼ってきた側面があり、生産者側が「どう売るのか」をあまり考えてこなかった結果だと分析。今後は、海外市場などより高く売れる場所を戦略的に考えるべきだと提案します。
特に課題として挙げられたのが、道内の最終加工の少なさです。一次産品は豊富だが、加工やパッケージングといった付加価値をつける工程が道外で行われることが多い。例えばタラコは道外で明太子に加工され、最終製品の製造地が北海道にならないケースなど。富山さんは、九州が垂直統合で加工・販売まで行っている 点と比較し、北海道の第二次産業(食品加工業など)がもっと厚くなるべきだと述べます。木下さんは、セコマが閉鎖された工場を買い取り製造まで行っている 事例を挙げ、この分野に大きな成長余地があるとしています。
第二次産業では、半導体関連(Rapidus) やデータセンター への国策投資が進んでおり、「第2の開拓期」 とも言える状況です。これにより安定電力の重要性が増し、泊原発の稼働の議論にも繋がっている。木下さんは、過去に多くの地域が製造業を諦めた中で、北海道はこの機会に第二次産業をしっかり打ち込むべきだと述べます。
第三次産業の柱である観光は、コロナ前を超える賑わいを見せており、特にニセコや富良野といったウィンタースポーツ分野は世界的に見ても競争力が高い。しかし、ホテルなどの投資が道外・海外資本に偏っている ことや、日本がリゾート開発における地元資本比率の規制がない「ドフリー」 であることを課題として指摘します。単価向上 の余地も大きく、ニセコのラーメン3000円問題 は日本の賃金の低さを露呈しているにすぎず、イタリアの例のように山頂にミシュランシェフを呼ぶなど、さらに高単価な戦略が必要だと提案されています。観光消費額はまだ1〜2兆円規模 であり、これを10〜20兆円規模に引き上げるシナリオが必要だとしています。
「一国」としての自立を目指して
北海道をスイスやデンマークと同じくらいの人口規模を持つ「一国」 と捉えると、グローバルに稼ぐポテンシャルがある と木下さんは述べます。現状の貿易収支が約1.4兆円の輸入超過(輸出4296億円、輸入1兆8401億円) であることを踏まえ、第一次・第二次産業での付加価値向上や、観光・宇宙産業 など外部からお金を呼び込む分野を強化し、貿易収支を改善していく必要があると提言しました。
過去の石炭産業の衰退による町の悲惨な状況 を反面教師とし、現在のラピダスなど第二次産業の波を活かすことの重要性を指摘。また、石炭産業からホタテ養殖に舵を切り、一人あたり所得を大きく向上させた猿払村 の事例を挙げ、大胆なリーダーシップによる産業転換が地域を救う可能性を示唆します。
結論として、北海道経済には資本流出や産業構造の課題があるものの、人口減少社会において食料生産力の高さ、成長が見込まれる第二次産業、回復著しい観光 など、多くのポテンシャルが存在します。今後は「供給側」が強くなる社会 において、北海道が持つ「作る力」をいかに活かし、地域内で経済を循環させ、域外から稼いでくるかという視点がますます重要になると述べ、対談を締めくくりました。
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