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人材育成をアップデート~老舗企業がDX人材を育成するためには~(後半) 【DX人材育成】老舗企業が今すぐ実践するべきこと
2024/06/12
人材育成をアップデート~老舗企業がDX人材を育成するためには~(後半) 【DX人材育成】老舗企業が今すぐ実践するべきこと
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女性に特化したITエンジニア育成事業を展開するMs.Engineer(ミズエンジニア)。今回は、同社の代表取締役CEOやまざきひとみさん、株式会社チイキズカン代表取締役 坂本大典、そして愛媛の老舗企業である南海放送のサステナブル事業局長 永野彰子さんが「老舗企業がDX人材を育成するためには」をテーマにトークセッションしました。

目次

 老舗放送局のDX、現在地点と課題 


老舗企業がDX人材を育成するためには

老舗放送局におけるDXの取り組み 

 
永野:南海放送の現状についてご説明します。南海放送は老舗ではあるけれども、全国の放送業界の中ではIT化に非常に先進的な会社だと思われています。当社では「南海放送アプリ」というものを10年ほど前に社員が作りました。ニュース、情報、天気、プレゼントの情報などが一気に見られるアプリです。今、このアプリを全国の21の放送局でお買い上げいただいています。すでに収入事業になっています。 
 
また、経営者が「新しいことをやれ」という方針なので、DX化にも早めに取り組んでおりますし、ニュース配信の一括配信システムや、ライブコマース、生成AIの独自開発と活用などなど…。結構、新しいことをやっています。実は、それを進めているのは6人のグループなんですね。 
 

精鋭6人が牽引する南海放送のDX 

 
永野:一人、二宮というITに優れた人材がおりまして、彼がどんどん手を挙げるし、トップも「やってみろ」というスタンスなんです。そこに成果を求めないところがあるので、彼らがどんどん新しいことを開発していくことで、南海放送は「IT進んでる」というイメージがついています。これが我が社のITの状況です。 
 
でも、課題は50代以上のバブル入社社員がとても多く、こちらがITにまったく疎い…私も含め(笑)。だから、二宮たちのグループへの理解も低いし、ITとかネットを使うものは、どんな難易度でも、全部そちらに振っちゃうんですよね。だから、このグループがすごく忙しくなってしまう…。「少しぐらい自分で学んでくださいよ」というのが、彼らの悩みでもあるような気がします。そういった状況で50代以上の社員をどうIT化させていくか、というのが一つの課題です。

https://www.rnb.co.jp


エンジニアとビジネスサイド 適正割合は1:1 

 
坂本:僕は、テックカルチャーの会社を作りたいんだったら、シンプルに「人数比を、エンジニアとビジネスサイド半々に」と言っています。例えば、NewsPicksっていう会社には200人以上いましたけど、100人以上エンジニアがいるわけですよ。そういう会社と、1チームしかエンジニアがいない会社が戦ったら、エンジニアが多い方がIT化速いに決まってんじゃんと(笑)。 
 
人数比が違うと何が起こるかっていうと、もう「受託」になっちゃうんですよね。ビジネスサイドとエンジニアが1対1だったら、しっかり一緒になって考えられるんです。だけど、ビジネスサイドが3人いて、エンジニア1人だったら、3人のやりたいことを押し付ける形になってしまう。結局「言われたことをやる」ということになってしまいがち…。僕自身、エンジニアの数を増やすっていうのは、そもそも企業経営にとってめちゃめちゃ大事だと思ってます。 
 

DX推進のためにトップダウンの重要性 

 
やまざき:もちろんマジョリティにするっていうのは、めちゃめちゃ有効だと思います。でも「そうはいかないよ」というケースが多いとも思っていて。その中でいうと、南海放送さんて「トップダウン」ていうのがすごくいいですよね。ボトムアップで、「テック文化にしていきましょう」とどんなに言っても難しいので、ひとつキーとなるのはトップダウンでどれくらい畝り(うねり)を作れるか。要は「なんか、あそこ上手くいったらしいぞ」みたいな畝りの中で、小さいマジョリティを作っていくことだと思うんですよね。キーワードとして「トップダウン」と「小さいマジョリティ」っていうのは、間違いなくあるなと思います。 
 
坂本:そこは今、南海放送さんもできているってことですよね?なかなか年齢層が高い会社でも、トップダウンで「新しいことをやるんだ」ということ、また専門チームがあって素晴らしい人材がいるという環境があると。じゃ、そういう会社がさらにIT化を進めていくためには、どういうことが必要なのでしょうか。 
 

リスキリングの成功と失敗の分かれ目 


キーワード「トップダウン」と「小さいマジョリティ」


リスキリング成功の分水嶺は、十分な時間を確保する仕組みと覚悟 

 
やまざき:例えば座学の「研修」って、実はほとんど有効ではなくて…。Ms.Engineerも半分実践にしていますが、やっぱり技術やテクノロジーを使う仕事って「リアル」なので、研修にどれくらいリアルを持ち込むか、ということだと思うんです。「実践させる」という環境にどう追い込むか…。結局、リスキリングの成功と失敗を分ける一番の分かれ目って「時間をちゃんと確保するか」ということ。あと、その中で「どれくらい実践経験を積ませるか」ということだと思います。だとすると、どれくらいOJTに近いような環境で小さなマジョリティを作れるかがポイントです。 
 
例えば、技術者の方、外部の方でもいいんですが、一人入ってもらって、その周りに育成対象の人材を配置して実践経験を積んでもらい、そこで育成する形で派生させていくとか…。実践経験を積ませるような環境を、研修や座学で教えようということだけじゃなくて「教育」としてイメージしたほうがいいんじゃないかと思いますね。 
 
坂本:南海放送さんの事例でいうと、二宮さんのチームがあって、そこに学べるポテンシャルのある人材をアサインしないと研修では意味がないっていうこと? 
 
やまざき:…と思います。エンジニアを育成する場合なら、エンジニアの人を1人入れて、その周りにエンジニア育成候補みたいな人材を入れて、一緒に仕事をさせるとか。そういう、本当に「実践経験がある人が、周りも育成してね」という体制を構築する。そうすると、派生しやすいんじゃないかなと思いますね。 
 
永野:なるほど。私たちも50代以上の人たちを教育しなければいけない、全体の底上げをしなければいけないと思って研修を探していたけれども、あまり効果がないっていうことですね。もう、できる人間を選んだほうがいいということですね。

どれくらい実践経験を積ませるか
 

座学研修よりも実践的なトレーニングを 

 
やまざき:実践で「仕事で1年間、一緒に作ってこい!」みたいな(笑)それぐらいやると、例えば50代の方でも意外と楽しかったりするので。「座学」って、面白くないじゃないですか。できるだけ、リアルに持ち込むことが重要だと思いますね。 
 
坂本:僕は、新卒の会社がPWCっていうコンサルティング会社で、上海でIT研修があったんですね。で「プログラミングとはどういうものなのか」っていうのを、実際にコードを書きながら学ぶプログラムがあって。あの研修だけは、めちゃめちゃ意味があったと思っていて。 
 
なぜかと言うと、コードを1回書いてみれば、エンジニアじゃなくても「ITのサービスでこういうことはできる・できない」が、大体分かる。「システムは、こういう風に作られているんだ」と分かるだけで、違う。そこを理解するような講座を、年配の方が受けるっていうのは、意味がある気がするんですよね。 
 
やまざき:そうですね。社内システムを実材料に置いたような研修というか、開発演習みたいなものまで組んじゃうくらい「リアルに近づける」っていうことが大事かなと。 
 
坂本:丸1日とか3日間くらいかけて、開発させるまでやり切ったら変わるかもしれない。 
 
やまざき:そうですね。まずは、手を動かしてみる。 
 

地方にエンジニアを増やすためには 


そもそもエンジニアがいない社会で「DXもクソもない」


地方にもっとエンジニアを増やすべき 

 
坂本:僕、やっぱりもっと地方にエンジニアが増えないといけないと考えていて。僕自身、前職の時に日本中でどこに拠点作ろうかと探していた時期があって。でも、社長でかつ地元なのに、愛媛は対象にしなかったんです。その理由は、シンプルに「エンジニアがいない」から。選んだのは、福岡とか、名古屋とか明確に理系の大学があってエンジニアがいるところだけでした。 
 
だから愛媛に戻ってきて、やっぱりすごくエンジニアが増えることが大事だと思って。やっぱり「DX、DX」って言われてるけれど、そもそもエンジニアがいない社会で「DXもクソもない」。だから、エンジニアをもっと増やしたいと思っている。ただ、やまざきさんの話を聞いていて若干、混乱してきた(笑)。 
 
というのも、ここで人材が育っても、どんどん東京の会社に取られていって、優秀な女性が地方から抜けていくのが加速するような、そういう社会になっていくんじゃないか。どんどん、地方が置いていかれるんじゃないかと感じたんです。でも僕は、個人の行動はそういう原理を変えられないと思っていて。実際、愛媛で受講した優秀な女性がエンジニアのスキルを得たら、明らかに東京のほうが給料も高いし、そっちにいくでしょと。 
 
今、フルリモートで働ける時代だから、東京の会社で働きながら、愛媛で暮らすのが一番コスパが良いっていう形になっていくでしょう。そうすると、愛媛の企業が選ばれなくなっていくんだろうと思ったときに、地元の企業はどういうスタンスでそれに向き合えばいいんだろう…っていうのを、悩んでたんですけど、どうですか? 
 

地方のエンジニア育成 リモートワークという活路 

 
やまざき:一つのキーワードは、「リモートワーク」だと思います。今、地方の女性が東京の企業に就職しづらくなっているのは「出社回帰」が起こっているからなので。 
 
みなさん、技術職に就きたいとかスキルアップしたいという思いはあるものの、お子さんがいるから引っ越しはできない。その中で、一部でもいいからリモートワークを許してくれる環境に行けるだけで、お給料は上がらなくても幸せ、みたいな女性ってすごく多いんですよ。Ms.Engineerに来られる方で「お給料上げたい」って言う方は、ほぼいなくて…。もちろん、本心では思っているかもしれないですよ。でも、それくらいお給料を上げる以前に「働き方」が続かないと思っている女性がすごく多い。これって、実は地域にとってはチャンスポイントなんじゃないかと思っています。 
 
坂本:どっちかっていうと、プログラミング教育関係なく、シンプルに地方の会社はリモートワークを取り入れないと人が抜けちゃうよ、っていうこと? 
 
やまざき:それはあると思います。かつ、エンジニアを増やしていったときに、エンジニアって意外とリモートワークでもマネジメントしやすかったりするので、そこは相性が非常にいいっていうところはチャンスポイントかなと思いますね。

お給料以前に働き方を大切にする女性たち


とはいえ、育成した社員に抜けられるリスクも… 

 
永野:南海放送もいろいろグループ会社があって、給与体系が違うんですね。そして女性の場合、バックオフィスは給与が低かったりする。でも、副業は認められているから、自分で技術を身につけて副業ができるんじゃないかなと思いました。こういうのを取り入れれば、会社にとってはもちろん貢献してもらえるし、本人も収入が得られるし「すごくいいな」と思ったんですよね。 
 
ただ、企業からするとこういった、Ms.Engineerのような研修を受けさせて、人材育成しても「もう技術身につけたから、別の会社に転職します。」っていうこともあり得る。そうするとかけたコスト、育成資金がそのままどこかへ持っていかれるのでは、という不安があったりするわけですよね。だからある程度、国とか県などが助成金を出してくれて、教育してくれるような仕組みにしてくれたら取り掛かりやすいと思いました。 
 
坂本:副業とかもかなり進んできているので、個人のスキルアップは、あくまで個人でやるべきものっていう社会になっていくのかな。 
 

最重要アジェンダ リスキリングを活性させる三方よし 

 
やまざき:リスキリング自体が今、国のかなり重要なアジェンダですし、リスキリングすることによって今の労働人口をより活性化していなかくてはいけないというのを、むしろ国と企業のほうが思っているくらいなんじゃないかな、と思います。 
 
私はリスキリングって、個人が時間的なコストを払うだけで、めちゃめちゃ負担が大きいと思っています。働きながら勉強するって、本当に大変なので…。むしろ、人材が欲しいのは自治体とか国とか企業なんだから、本当は金銭的なコスト、経済的な負担は、個人と行政・自治体と企業と、三社分担できれば三方良しになるというのが理想のモデルかなと思います。 
 
坂本:なるほど。例えば、愛媛で女性がたくさんいる会社で、Ms.Engineerでもう全員エンジニアとして働けるように育成するくらいやりきったら、そこはめっちゃ優秀な人が採れる…っていうことはあるかもしれないね。

働きながら勉強するって本当に大変


人材育成と流出にまつわる正しいマインドセット 

 
やまざき:ほんと、そうだと思います。やる前からびくびくするというよりは…。流出しちゃ困る人材が育成できたときに、むしろ企業側がその人材を引き留めようとすると思うんですよね。他で採用してくるよりは、今までの会社のロイヤリティもあるし、かつスキルも身につけてくれたなら「どうやって大切にしよう」って考えると思うんですよ。それが、その人にも伝わるので、個人がスキルアップすることって、企業側にとっても良いことしかないと思います。 
 
永野:すごく、素敵な研修だと思うんですよ。どんどん受けさせたい。当社でも、バックオフィス業務なんだけれど「RPAやってみて」と言ったら、サクサク自分で学んでどんどんロボット作っていく女性もいたので。本当に、女性は向いてるんだなと思いました。そして、彼女は文系なんですが「文系でもできるんだな」と思いました。こういったエンジニアを目指すのに、条件というか、「こういう人は向いている」とか「理系じゃないといけない」とかあったりしますか? 
 
やまざき:日本は女性の理系教育が遅れているので、当社の生徒さんの9割は文系です。だから、文系で大丈夫です。文系で活躍しているエンジニアの方は、非常に多いので。ただ、「私でもなれますか?」は非常によく聞かれるんですよね。プログラミングって、どうしても向き不向きがあります。それはやってみないと分からないですし、私たちもお話しただけだと分からないところはあります。 
 

エンジニア向きの人材は目的意識が高い 

 
やまざき:今、永野さんがおっしゃったような女性は、多分すごく向いていて「やってたら楽しい」みたいな感じだと思います。成功するパターンは2つで、一つは「もともと向いてました」という方。もうひとつは、向いてなくても一生懸命勉強して「この先、ぜったいキャリアを掴み取ってやるんだ」みたいな目的意識が高い方。このどちらかのパターンであれば、基本的には成功する方が多い。逆に向いていないのは「勉強が苦手」とか「さぼっちゃいます」みたいな方。こういう方は、どうしてもなれない。でも、それ以外の方は基本的には結構、未経験でも頑張れるというところはあります。 
 
永野:勉強を継続する力があるかどうか? 
 
やまざき:そうですね。堅実に、ちゃんと時間をとって、コツコツ勉強できる。それは、もともと頭がいいとかっていう必要も全然なくて。もし少し効率が悪いのであれば、それは時間をとればいいということなので。それ自体は目的意識が強ければ、完遂する方が多いですね。 
 
永野:なるほど。そういう人を選抜したらいいんですね。 
 

南海放送がいますぐやるべきこと 


女性を集めることで心理的安全性がある


やまざきひとみさんは、南海放送にどんなアドバイスを? 

 
坂本:やまざきさんは、メディアもやってたじゃないですか?例えば、南海放送の社外取締役になりました。「DXをさらに加速したい」っていう立場で入ったときに、今の情報だけでいうとどんな提案をする? 
 
やまざき:今、6人のチームで進められていると。それこそ「マジョリティ」まではいかなくても、母数を増やすための候補をできるだけ選びましょう、っていうことですかね。あとは、より「リアル」に近づくような実践的な疑似体験…実務でも良いくらいのレベルだと思いますけど、研修やOJTの体制をどう構築していくか。そういうプロジェクトを敷くことは、効果があるんじゃないかと思いますね。 
 
坂本:サイバーエージェントでメディア業務をされてた時、エンジニアとのチームのバランスってどんな感じでしたか? 
 
やまざき:エンジニア主体ですね。仕切るディレクターとかプロデューサー、PDMみたいなのは1〜2割くらいで、あとはエンジニアです。 
 
坂本:なるほど。例えば、今も南海放送には精鋭チームがあるわけじゃないですか。DXしたいメンバーを各チームから5〜10人選んでドラフトして、その5人を研修させて…。それで1回、二宮さんチームに打ち込むっていう。プラス、二宮さんチームをもう一回、集約して戻すみたいな。そんなことをやったら、いいかもしれないですね。 
 
やまざき:細胞をゲット、培養して(笑)。 
 
坂本:やまざきさんのお話で面白いなと思ったのは「女性を集めることで心理的安全性がある」ってこと。これ、すごく大事だと思っていて。今の話も、多分一緒ですよね。例えば、NewsPicksの時もそうだったんですけど、編集者がめっちゃ強い会社で、エンジニアが数人しかいなかったら、もう編集者からぶわーって言われて、エンジニアが萎縮してしまうんですよね。だから、切り出してここ(エンジニア)だけで守ってあげるというか、心理的安全性があるチームを作ってあげるっていうのはすごく重要なことだと思っていて。それを強化するっていうことが、いいのかね。 
 
やまざき:そうですね。もちろんトップダウンでやって「特命のプロジェクト」であるってことで、社内でも認められて。ドラフトするという演出もそうですし。そういうことも「効く」というか、本人たちも頑張れるようになると思います。 
 
坂本:なるほど、面白いですね。やっとイメージが湧いてきた(笑)。人が出ていくのかと思って(笑) 
 

天才を育成することはできない 

 
坂本:多分さっきの話でいうと、二宮さんっていうリーダーは育成できない可能性があると思っていて。エンジニアって、ビジネスサイドよりも圧倒的に「1人いたら100人分働く人」がいる世界なんですよね。 
 
なので「天才」がいるかどうかって、すごく重要だと思っていて。正直、研修したらエンジニアとして腕のいい人は育つと思うんだけれども「天才が生まれる」イメージっていうのがあんまり湧いてなくて。例えば、ユーザーベースにいた天才がどんな人だったかというと、高校生の時からずっと篭ってプログラムをやりまくって、勝手にITサービスを作りまくって、学生でサービスを何個も運営していて、何千万稼いでいる東工大の院生…みたいな人なんですよね。それを研修で育てるのは無理だなっていう感覚なんだけど、どうかな? 
 
やまざき:そうですね。やっぱり、スターの育成に再現性があるかというと、なかなか難しいと思います。だから、トップダウンで作っていくのであれば、コンセプチュアルにテクノロジーがもたらす効果みたいなものが、根っこから細胞レベルで分かっている人みたいな…。ただ、すごいギラギラしているというより、この人はその種があるんじゃないか、みたいな人でもいいと思うんですけど。確かに、スターの育成はできないなとは思います。ただ、その人をフォローする人っていうのは真面目に育成できるので、そういう構成でみるのは重要かもしれないですね。 
 

まずはスターを探せ 次に周囲のサポート体制 

 
坂本:地方の会社が、本当にそういう意味で変わる上で大事なポイントは、一番目はまず「スターはなんとか探してくれ」と。そして、スターが1人いるのであれば、それを囲むメンバーをしっかりいろんな形で育成して、どんどん人を増やしていくことだと。 
 
やまざき:その震源地みたいなところは、別に愛媛にいなくてもいいと思うんですよ。本当にコンセプチュアルに震源地を持ってきてくれる人を、外部から召喚すればいい。ただ、周りに必ずそのDNAを継承する体制を整えて、期間限定にしたり、心理的安全性のあるゾーニングをしたりして育成するっていうことを、セットでデザインすることじゃないですかね。 
 
坂本:なるほど。それをやった上で、成功事例が出たタイミングで、役員クラスにより正しくITのことをインプットする、理解してもらうという取り組みをし、さらにチームを拡大する。このサイクルですかね。 
 
やまざき:そうですね。であれば、いきなりエンジニアを半数にすることができそう… 
 
坂本:この型いいじゃん!この型を企業に提案して「まずはこれです」と。それ、やれる気がするね(笑)。

「スターはなんとか探してくれ」


エンジニアの報酬は高く設定するべき 

 
坂本:南海放送って、エンジニアの給料高いんですか? 
 
永野:同じです。 
 
坂本:同じなんだ。そこはちょっとね…。どう思います? 
 
やまざき:それは、もちろん差があったほうがいいと思います。経営上。やっぱり優秀な人は、どんどん流れていっちゃうんですよね。びっくりするほど…。 
 
永野:我々の業界では、放送の送り出しのほうを技術っていうんですよ(笑)。ですから、IT人材が技術っていうような認識が、まだできていないですね。 
 
坂本:他社に広げられるくらいのサービスを作れるチームであれば、本当に引き抜かれてもおかしくない…。今の6人、まるっと引き抜かれたら大変なことになりますね。 
 
永野:あっという間ですね…。ただ、とにかく忙しいのでなかなか教育ができない。 
 
坂本:今の話を聞くと、不安になってきた。やっぱり、エンジニアって給料高い人がいるので。要は、都心部の会社だったら、そこまで忙しくなくても稼げちゃうということが起こりうる…。今はとにかく忙しくて、そこにまだ気づいてないっていう可能性が、結構真面目にあると思っていて。 
 
IT企業は、エンジニアに合わせてカルチャーを変えてきたくらい、エンジニアにとって「自由な働き方」っていうのを実現することが、もうめちゃめちゃ大事だったんですよ。なので、そこができていなかったら、本当にIT企業に抜かれるリスクがあるなっていう(笑) 
 
永野:そうですね。当社は旧態依然としたところもありますので「この事業をすることによって売上がいくら上がったのか」が評価指標になるんです。IT関連の二宮さんの部署は、それが出ないんですよね。でも、いろんな事業では関わっているんです。すごくサポートして、底上げを図っているんだけれども、売上は出ない。だから、そのあたりで冷たく当たられることがあるというのは聞きますね。 
 

DX推進のための最重要マインド 


「エンジニアにやさしくしましょう」
 

DX推進の最重要マインド エンジニアに優しくしよう 

 
坂本:僕は、本当に一番大事なのは「エンジニアにやさしくしましょう」ということだと思っていて。エンジニアは、宝です。それぞれの会社で、多分エンジニアの方いると思うんですけど、本当に宝だと思うので、そこのケアはやりましょう。 
 
永野:もうひとつ二宮が言っていたのが、今、大学で「IT人材を育てよう」となってますよね?でも実際、その人材が育ってきたときに、地元の企業ではその人材の能力を判断できる経営層がいないんじゃないかと。だから、大学で育てたとしても、上手く使えないんじゃないかというところはすごく不安視していましたね。 
 
坂本:なるほど。そういう意味でいうと、やまざきさんが次の事業でやるべきは、スターをちゃんと紹介する事業をセットでやらないといけないかもね、地方なら。 
 
やまざき:そうですね。活かし方が分からないとか、そこで「売上出せ」みたいなコミュニケーションになると、すごく悪循環という…。だからこそトップダウンが重要で、コンセプチュアルに大事にする「エンジニアはなぜ大事なのか?」「大事だから大事なんです」くらいでいかないといけないってことですよね(笑)。 
 
坂本:あと、エンジニアの評価ができないっていうのも、すごい分かって。エンジニアの評価をしてあげるサービスもいいと思うんです。地方の企業は、本当に分からないから。GitHubとかをもらって「この人は、いいエンジニアだ」っていうのを出すっていう様なサービスもいいかなと思いました。 
やまざきひとみ
Ms.Engineer株式会社
代表取締役CEO やまざきひとみ
1984年東京都生まれ。2007年、新卒でサイバーエージェントに入社。「アメーバブログ」創生期にブログや基幹機能のプロデューサーを務める。2008年より「アメーバピグ」立ち上げを担当。その後も、スマートフォン事業部の立ち上げや、大人女性向けキュレーションメディア編集長などを歴任。2015年に独立し、女性向け動画メディア編集長に。2016年には、メディアプロデュースやマーケティング事業を展開する企業を設立。2021年4月、女性対象のオンラインプログラミング教育サービスを運営するMs.Engineer株式会社を設立。
永野 彰子
南海放送株式会社
サステナブル事業局長 永野 彰子
1988年、南海放送にアナウンサーとして入社。ラジオの音楽番組、テレビのニュース番組(ニュースCh4)等を担当。報道を25年ほど経験した後、2009年アナウンス室室長に。編成局次長などを歴任し、2018年放送事業の請負やイベント企画・CM制作などを請け負うRNBコーポレーション株式会社代表取締役に就任。現在は、南海放送株式会社のHRMなどを担当するサステナブル事業局 局長も兼務。
1953年開局、2024年で70周年を迎える老舗企業。愛媛県の民放では最も歴史のある放送局。テレビ、ラジオ、ネット部門がある。現在、従業員の半分以上が50代。社員数は120名。(2023年12月現在)

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