ファミリーマートのブランディングやユニクロのプロモーションなどを手掛ける、The Breakthrough Company GO。今回は、同社の代表でありクリエイティブ・ディレクターの三浦崇宏さん、株式会社ローカル大学 代表取締役 宮嶋那帆、そして2023年11月にJ2昇格を果たした愛媛FCの取締役 村上茉莉江さんのトークセッションです。愛媛FCが現在抱えている課題に対して、三浦さんにアドバイスをいただく「公開壁打ちスタイル」で進められました。
目次
- 愛媛FCの収入の解像度を上げる
- 愛媛FCの経営をアップデート
- 愛媛FCの経営における課題は?
- スポンサーはなぜ愛媛FCにお金を払うのか
- スポンサー収入の解像度を上げる
- ファンがスタジアムに足を運ぶモチベーション
- 自発的なアクションを生む仕組みづくり
- 愛媛FCのスポンサー企業が感じる経営上のメリットは
- 大きな感動体験と小さな感動体験
- ファンに提供する感動体験の細分化?
- 選手を日常的に応援したくなる気持ちをどう作っていくか
- ファンをエンゲージする"距離感"の法則
- メディア露出の直後こそ、ファンとの距離を近づける
- ファンをエンゲージする距離感の法則
- 2,000人のサポーターという財産をどう活かすか
- 愛媛FCのCDが捉えたサポーターの本質的欲求
- 愛媛FCの関係人口を増やす
- 人間の究極の欲求は感動である
- サポーターにミッションを プロサポーター制度の導入
- サポーターに感動体験を広く深く届けるには
- 優れた経営者はプラスよりもマイナスに目を向ける
- 経営者はプラスよりもマイナスに目を向けるべき
- ネガティブ要素を聞き出すヒアリングノウハウ
- 愛媛FCのネクストアクションは?
愛媛FCの収入の解像度を上げる
愛媛FCの経営をアップデート
宮嶋:愛媛FCは、先日J3リーグで優勝しJ2に昇格しました。正確には、2年間J3で戦ってJ2に「復帰した」という形です。今、すごく祝福ムードで勢いがあるチームですね。ただ、経営面では課題がいろいろあるということで…。
村上:J3からJ2に2年で戻れたのは、2021年から降格したチームでいうとウチだけになります。1年、2年で戻るというのは、歴代おそらく4チームしかなくて。一回落ちてしまうと「J3の沼」とも言われるように、なかなか戻れないという現状があります。
2023年11月11日、FC今治との対戦で11,128人の観客のみなさんに入っていただきました。見事1対0で勝利しまして、愛媛FCの優勝とJ2復帰が同時に決まりました。
愛媛FCの経営状況をお伝えします。こちらが、2022年の状況でございます。
大体8億弱が総収入なんですけれど、J2だと17億ぐらいが平均収入になっています。単純に平均に合わせて考えると10億くらい収入が足りない計算になります。内訳のほとんど(49%)がスポンサー収入になっていまして、入場料収入はわずか6%にとどまっています。
大体8億弱が総収入なんですけれど、J2だと17億ぐらいが平均収入になっています。単純に平均に合わせて考えると10億くらい収入が足りない計算になります。内訳のほとんど(49%)がスポンサー収入になっていまして、入場料収入はわずか6%にとどまっています。
愛媛FCの経営における課題は?
村上:支出のところでは、チーム人件費がほぼ(35%)占めるんですけど、これは「トップチーム人件費」です。ウチは男子とその下部組織(アカデミーアンダー18/アンダー15)を持っています。あと、レディースチームも持っています。この一番上の男子のトップチームの人件費だけで35%といった状況です。
その他諸々、こういった経費がかかる状況で、ほぼ利益は出ていないですし、20年間の累積でいうと赤字のほうが多いような状態で…。今せっせと、その累積赤字を消しています。現在は、なんとか3期連続で黒字にはできています。今期も黒字で終えるよう、今、努力しているところです。
ただ、なかなか厳しい状況が続いていますし、J2で戦う上では、平均収入もどんどん上がっていっているので、しっかり稼げるようにならないといけないと思います。観客動員でも収入が少ないとお伝えしましたけれど、まだまだ伸ばしていかなければいけないところです。
スポンサーはなぜ愛媛FCにお金を払うのか
三浦:ありがとうございます。収益の配分、スポンサー収入ですね。入場料が今、少ないのが一番課題ってことですもんね。お客さんていうのが、要はスポンサーとファンなわけですよね、サポーター。
最初にやらなきゃいけないことってすごくシンプルで、「お客さんが、なんでこれにお金を払っているのか」ってことなんですよ。そこを理解して、そこからの解像度が上がらないと戦略って立てられない…。まず、スポンサーの方って、なんでお金払ってくれてるんですか?
村上:一つは、地域貢献。次に多いのは、広告。サンプリングをしたいとか、広告効果を期待されているのもあります。変わり種でいうと、雇用に困っていて、ウチのレディースチーム(アマチュア)の子たちを雇用してもらって…。迎える側からすると安定的な雇用が確保でき、その分採用のコストが浮くから、その分くらい収入にしてくださいよ、みたいな理論でスポンサーになっていただいたところもあります。
三浦:スポーツのスポンサーって、お付き合いが多かったりとか…。本当に広告効果があるのかっていうのが、分かんなかったりするわけですよ。そうなったときに、じゃあ、選手と社員の交流が必要だったのかとか、何が本当に欲しいのか、何があったらもっとお金を払うのかっていうことは、めちゃくちゃちゃんと聞いたほうがよくて。
今の顧客に対して、堅くヒアリングするのはもちろん、メシ食いに行くでもいいし、「どうしてお金を払ってくれているのか」「どうしたら今の2倍お金を払ってくれて、それが成立するのか」っていうことを、ハイボールを(濃度)高めにして聞きに行く、っていうのは一回やったほうがいいと思います。
スポンサー収入の解像度を上げる
三浦:スポンサー収入の解像度を上げて「あなたの言ってる、地域貢献って具体的に何なの?」っていうのを、めちゃめちゃ掘る。で、どうやったら2倍お金を払って、それが会社として成立するか。会社が経費を削減するときに、一番やり玉に挙げられるわけですね。こういうスポンサー費って。じゃあ、スポンサーじゃなくてこれは「マーケティング」なんだ。これは必要なものなんだ、これがあることによって事業が伸びてるんだ、っていうふうにするにはどうすればいいか、ってことをめちゃめちゃ聞く。
「地域貢献」って言われているうちは、一番削除されやすいところなので。マーケティングとか採用っておっしゃったと思うんですけれど、そこに変えるためには何ができるのかっていうことを、ちゃんとやったほうがいいっていうのが一つですね。
ファンがスタジアムに足を運ぶモチベーション
三浦:もう一つがファンの入場料ですね。なんで、この人たちは来てくれてるんですかね?
村上:いろいろ理由はあると思うんですけれども、ひとつはそこでコミュニティができあがっているところ。そこで、いつもの応援仲間と応援するのを楽しむとか、交流を楽しんでもらっている人がリピートしてくれているのかな、とは思います。あとは選手が好き、ですかね。
自発的なアクションを生む仕組みづくり
三浦:シンプルに「コミュニティ」と「選手が好き」だとするのであれば、コミュニティを作っていくためのツールって、どれくらいやれているのか。小さいイベントをたくさん実施する、みたいなことはできているのか。
あるいはコミュニティ同士で連絡するためのツールを提供できているのか。コミュニティを作るための基本って、やっぱり関係人口を増やし続けるっていうことと、定期的に継続的なアクションをし続けるっていうこと。あとは彼ら彼女らの自発的なアクションを生む仕組みを、どう作れるかってことだと思います。それをどれだけ、いかに的確にやれているかってことですね。
もう一個は、ファンがどの選手を好きなのか、っていうのは多分リサーチしたほうがよくて。場合によっては、一番有名な選手に対して、めちゃめちゃ投資していって…例えば、芸能事務所と組んで、無理やり売り込んでいくとかも、やってもいいかもしれないし。
例えば、僕がコンサルしているサイバーエージェントのDDTっていうプロレス団体でいうと、選手たちをまとめて芸能事務所に登録させたんですね。で、「番組があったら、すぐに押し込んで」って出ていくようにして、それで女性のファンが一気に増えた、みたいなこともあるので。
どっちも一緒なんですけれども、「なんで来てくれているのか」「どうしたら今の2倍のお金を払ってくれるようになるのか」を一回ヒアリングして、そこから戦略を立てることが、僕が最初にやることですね。
愛媛FCのスポンサー企業が感じる経営上のメリットは
宮嶋:スポンサー収入のところでいうと、茉莉江さんの会社(ニンジニアネットワーク株式会社)が一番のスポンサーでもあると思うんですが、経営的なメリットとしてはどういうところが?
村上:正直、ユニフォームになると金額がかなり高いので…。費用対効果を経済メリットとすると、結構苦しい。でも、この前の試合で社長も私も「わーっ」って入っていって、「これがプライスレスなんだよ!」と感じました。あの感動のためなら、いくらでも払えると…。なので、来年ウチは2倍にするって言ってます(笑)。
大きな感動体験と小さな感動体験
ファンに提供する感動体験の細分化?
三浦:すばらしいですね!だとすると、感動するんだったらいくらでも払うわけじゃないですか。でも、優勝のときしか感動できないとしたら、辛いじゃないですか。優勝によって得た感動はもちろん最高なんだけれども、それをもうちょっと細分化する方法ってないんですかね?
例えば選手と一緒に練習する…。企業としての新人研修と、サッカーの練習を一緒に組み合わせるような、なにかを作れないのかとか。例えば、部署間で交流をするためのサッカー大会をやって、そこにちょっと選手を貸してもらうとか。僕も適当に言ってますけど。要は、その「感動体験」を共有するとお金払っちゃうんですよね?
その感動体験の共有が年に1回で、しかも「優勝する」っていう超めずらしいタイミングしかないことが問題かもしれない。だとしたら、もっと小分けに感動させることはできないのか。もっと安く、もっと簡単に、もっとたくさん感動する体験を増やすっていうことを考えてみるとか。
今、まさに村上さんがおっしゃった「何の瞬間に金を払うのか」が分かれば、それをどうやって小さく再現するかというふうに考え方が変わっていくので。だとすると、理屈じゃないんですよね。マーケティングとかじゃなくて「感動」なんだと。じゃあ、その感動をどうやったらもっとカジュアルにできるのかっていう、そこから考えるとチャンスが出てくるかもしれないですね。
村上:やっぱり、優勝に向かって勝ち続けていたら、愛媛FCって頑張っていないような感じになっていたんですね、この20年の間に。それで、隣に岡田(武史)さんという超ビックネームが現れて、この狭い地域に2つもチームができて。スポンサーからすると、両方に出さなければいけないから「上1個」になって…。
「今治で勢いあるし、いいんじゃないの?」みたいなふうになっていたんですけど、でも勝ち進んでいくと、「愛媛FCって頑張ってるんだね」と、自然とスポンサーがめちゃくちゃ増えたんですよね。なので、やっぱり数でいうところではフットボールに依存してしまうんですけれど、本質はやっぱり感動するとか頑張っているところを応援したい…頑張っている姿を、表現できるということだと思うんですよね。
選手を日常的に応援したくなる気持ちをどう作っていくか
三浦:例えばなんですけど、村上さんのご自宅の向かいの家で、毎日小学生が柔道の練習してるとするじゃないですか。それを、雨の日もやってるんですよ。「すごいね、君!」ってなるじゃないですか。その子が「来月、大きい大会があって、いろんな人に応援してほしいんです」って言ったら、ワンチャン応援に行くかもしれないじゃないですか?
つまりどういうことかというと、いかに日常的に選手に対して応援したくなるような気持ちを生み出せるような仕組みが作れるかっていうところが、結構、大事だと思ってて。それは、例えばYou Tubeで選手の日常を流すとか、どっかのお店で一日店長やってもらうとかかもしれないんですけど。
結構、みんな間違えるのが、一回一回のアクションの数字を求めるんですよ。「じゃあ、一日店長やったら選手何人きてくれるんですか?」「ファンどれくらい接触するんですか?」「You Tubeやったら、どれくらいビュー見てもらえるんですか?」とか。そうじゃないんですよ。そういった、一回一回の数字ではよく見えない積み重ねが、最終の刈り取りにつながるんですよ。
ディズニーってすごくて、映画やグッズとか、結構赤字になることが多いんですよ。でも、彼らのビジネスモデルって、最後はディズニーランドのチケットを買ってもらうことで刈り取る、って決めてるんですよ。一回一回の施策のKPIを見るんじゃなくて、最後、試合にきてもらうための日常的な選手とユーザーとの接点をどれだけ作れるかっていうのが、結構ポイントになるかなと思います。
村上:そうですね。優勝したとき、夕方のニュースで電波ジャックしたんですよ。全局に選手を行かせて。そしたら、選手たちがめちゃくちゃ、町で声かけられて。帰宅時間が早くて、6時にはみなさん家に帰っているので、この町では家族で夕方のニュースを見るっていう文化がまだあるんです。なので「この町」っていうことを考えると、夕方のニュースに取り上げてもらえるようなことを入れるっていうのは大事なことだと思います。
ファンをエンゲージする"距離感"の法則
メディア露出の直後こそ、ファンとの距離を近づける
三浦:もちろん、テレビは優勝したら出してもらえるんですけど、毎回出してもらえるかっていったら、すぐには難しいじゃないですか。
だとしたら、テレビに出たあとに、どれだけ地道なことができるかと。僕の友人で、ゆうこすっていうインフルエンサー(元HKT48)がいるんですが、彼女はカラーコンタクトとかコスメとかで、それなりに勢いのある会社の社長なんです。彼女は「距離感の法則」っていうのを持っていて。例えばテレビに出るじゃないですか。そうするとみんな「すごい有名な人なんだ。私から離れちゃったんだな」と思うんですよ。
これ、僕らもあるじゃないですか。昔から好きだったタレントさんが、地下アイドルのうちは「オレが応援してあげよう」と思うけど、急に有名になると「アイツは売れちゃって変わっちゃったな」みたいに思う。
だから、彼女はテレビに出たら、その後ほど握手会とか、あんまり人が見ていなくてもYou Tubeでちゃんと生配信するとかをめちゃめちゃやるって言う…。自分が周りからメジャーに見えた瞬間、その後に、地道なことでバランスをとるっていうことをやっていて。
ファンをエンゲージする距離感の法則
三浦:結構やりがちなのが、大きいメディアで有名になってくると「テレビやラジオだけ出ればいい」と思って、人が見てないところなんかやる意味ないかもと思っちゃうじゃないですか。逆なんですよ。注目されたときに、逆にバランスをとるようにめちゃめちゃ地道なことをやる。それによって、「あのテレビに出ていた有名な人が、こんな10人しかいないオフ会に来てくれた!」ってファンの絆が強くなるんですよ。だから、テレビに出た後に、いかに地道なことを積み重ねられるか、そこの連続は絶対やったほうがいいと思います。
村上:なるほど!最高級のところを経験できたからこそ、ここに近づけるためのイベントなり、仕掛けなり、そこをしっかり組み立てていくっていう…。
三浦:はい。いかに岡田さんが有名人で、みんなが見たいと思ったとしても、毎日、家の前で練習している若者のほうが絶対大事じゃないですか。
村上:やっぱり愛媛出身の選手に対するサポーターの思い入れは、違いますね。愛媛出身の子が帰ってきたら、やっぱりその子向けの(応援)ができますし。残念ながら契約満了になったときも、彼らに対する横断幕や応援メッセージは必ず作りますし。
三浦:それが学校への出張授業なのかもしれないし、地道な握手会かもしれないし…。とにかく、マスで露出した後に、地道な露出をカウンターで積み重ねていくっていう。この連続によってとにかく、「あの人見たことある」「あの人聞いたことある」っていうのを続けていく。一回一回の効率論ではなくて、面で見たときの、刈り取りにつながっていく力をどれくらい作ることができるか。そこの設計をするだけでも、結構変わっていくと思いますね。
2,000人のサポーターという財産をどう活かすか
宮嶋:ちなみに来場者は、新規の方とリピーターの方って、どれくらいの比率か分かりますか?
村上:ほとんどがリピーター。「いつもの2,000人」と言われている人たち。ありがたいですけれども。
三浦:その「いつもの2,000人」がいるのは、素晴らしいですけどね。彼らがどうやって恋人、同級生、友達、先輩、後輩を連れてきてくれるのか。それだけでも、だいぶ変わりますからね。
よくあるのが、こういう状況になると、ついみんな、「2,000人は放っておいていい」って思っちゃうんですよ。「新しいお客さんをとるためにはどうすればいいか」って考えちゃうんですけど、多分逆で。この2,000人が2人連れてきたら、もう達成なわけじゃないですか。だから、この2,000人を徹底的に手厚くやったほうがいいです。この人がどうやったら他の人をもっと連れてくるか。そのために、お金も頭も使うっていうほうが結果的には有効な使い道だと。
お金が無限にある会社だったら、新しいマーケットに向けてどんどんやればいいと思うんですけど、お金が限られてるじゃないですか。だとしたら「梃の原理」だと思って。この2,000人のお客さんというメディア。この武器を、どうやったら上手く使えるかということを考えたほうがいい。お金の使い道を「新規顧客の獲得」ではなく、2,000人のお客さんのインフルエンサー化。いつもの2,000人を活性化するためにはどうしたらいいか、そっちの方がいいかもしれないです。
例えばその2,000人向けに、SNSで発信するための講座をしてあげるとか。その人たちが選手と交流するにはどうすればいいか、とか。逆にその2,000人をテレビに出してあげる、とかでもいいかも。選手の他に、サポーターの中でタレントを作るやり方もありますよね。名物サポーターみたいな。
村上:なるほど。いますね、います。「ちょんまげつんさん」とか「みかん星人」…いつも、みかんの被り物を被っている人とか。
三浦:すごく不安になりましたけど(笑)。でも多分、そういう方々を、テレビやラジオに出してあげるように動くとか。そうしたら選手は練習に専念できるし。選手以外のシンボルを増やしていく、っていうやり方はありますよね。
愛媛FCのCDが捉えたサポーターの本質的欲求
宮嶋:メディアとしてもYou Tubeをされていたり、テレビやラジオにも出演されています。その辺で、最近ファン層が変わったというお話もあるそうですね。
村上:はい。ウチのYou Tubeクリエイティブディレクターである、earthcampusの佐藤くんがお話します。
佐藤:佐藤涼介です。今日の三浦さんのお話で、すごい共感したのが、まず「自分が何ができるか」よりも、何がチームに求められているのかというのを、最初に知らないといけないなと思って。
僕はもともとサッカーをやっていたので、森脇(良太)とともに京都サンガからYouTubeをやっていたので、ある程度「サッカー選手」というものがどういう生態で、何を提供したいかっていうのは分かっていたんです。でも、一番分からなかったのが、ファンとかサポーターがどういう生き物なのかっていうのが…。
ちょうど僕が愛媛FCに入ったタイミングが、J3に降格したばかりで。初めて行った試合が「1年間ニンジニアスタジアムで、ホームで勝ってないです」って言われて…。「マジか!?」と思ったんですよね。
でも、いつもの2,000人じゃないけど、行ったら僕のことをファンが超ウェルカムに「(森脇良太の)誘ってんじゃんTVの涼介さんですよね?」と声をかけてくださって。なんか、1年間勝っていない雰囲気じゃない形のウェルカムで、こうなっている感情が意味分からなかったんです、正直。
これをまず理解できないと、ファンが喜ぶコンテンツは作れないと思って。ずっと、ファンの話を聞いたりしていて。コロナ禍での無観客試合とか、ファンは来られるけれどマスクしたまま、声援なし…っていうのが解禁されたタイミングがあって。その時に、ファンが選手のチャント(応援の時に歌う歌)を歌ったり、チームの歌を歌ったりして、めちゃめちゃ感動して。愛媛FCというチームを支えている外のファン、サポーターっていうような位置づけで見ていたんですけれども、ファンからすると、自分たちも愛媛FCの一部であるというような感覚を持っていると思って。
サッカーの試合をそのままYou Tubeで流しても、それは「DAZN」で観られるんで。そうじゃなくて、試合の2時間前、ファンが準備をしている姿とかフロントスタッフの人間が走り回っている姿とか、終わったあとの2時間とか…。試合の前の選手の様子とかっていう、すべてを一つの「Jリーグ」っていう、サッカーっていうエンターテイメント、愛媛FCファミリーが提供するドキュメンタリーという捉え方をしています。それで、「愛媛FCinside」っていうYou Tubeを、試合ごとに提供することを決めて2年間やってきた感じですね。
愛媛FCの関係人口を増やす
三浦:めちゃめちゃいいっすね!よく僕ら、行政とか地域の仕事をするときに「関係人口を増やさないといけない」っていう言い方をするんです。そういう意味でいうと、FC愛媛は選手登録で何人くらいいらっしゃるんですか?
村上:32人ですね。
三浦:32人。そこにフロントスタッフがいて、いつもの2,000人。だから、2,200人くらいの方がいるわけですよね。もう、彼ら彼女らに背番号あげるくらいのつもりで向きあうのはすごくいいと思うし、今やっていらっしゃる映像の考え方を経営とかファンサービスに当てはめたらどんなことができるか。
そこになんかヒントがあるような。すでに一本目はもう、始まっている感じがしますけれどね。彼ら彼女らが、選手はファンに感謝されるために、ファンに感動してもらうためにフィールドで走り回るわけですよね?
でも、その先にフロントスタッフや、熱烈なファンの方たちが、どうやったらFCが、愛媛が盛り上がるか。そのために頑張るような動きを、どうやったら作ってあげられるか。それは、You Tubeに映してあげることかもしれないし、もっと仕事をお願いすることかもしれないし。実際彼らはもう、社員だと思って(笑)。選手だと思って指示をするとか、そのくらいの思考の割り切り方があってもいいかもしれないですよね。
佐藤:結構、ファンはそういうことを求めているのかな、とも思いました。ある程度、ポジション、もう立ち位置を与えるほうが生きがいを感じるものなのかな、と。この2年、携わらせてもらって感じました。
人間の究極の欲求は感動である
三浦:村上さんの最初の言葉に戻るんですけど、じゃあ人は何がしたいかっていうところ。お金儲けがしたい人もいれば、モテたい人もいるかもしれないし、いろんな人がいると思うんですけれども、究極の人間の欲求っていうのは「感動したい」なんですよね。
世界史に関するラジオ(古典ラジオ)をやってる、深井くんっていう友達がいるんですけれども。「人間は何に一番幸福感を感じるか」という部分で、それはお金儲けした瞬間も、彼女や彼氏ができた、結婚した瞬間も、いろいろあるんだけれども、彼が言うには、一番は「自分が所属している共同体に、自分の特別な力を使って貢献できた瞬間」だそうなんです。そこに、人は一番興奮するらしいんですよ。幸福になる。
だからこそ、我々は経営するかもしれないし、仕事をするかもしれないし、頑張るわけですよね。だから、2,000人の方たちに彼らの仕事をあげる。彼らが、アスリートの試合を見るだけではなくて「自分たちもアスリートに貢献できたんだ」と思えるような、感動してもらうような体験をどう作るか。それが結果的に、その2,000人が、自分の周りの人たちを連れてくるきっかけになるんじゃないかなと。そんな気がしますね。
サポーターにミッションを プロサポーター制度の導入
村上:愛媛FCはボランティアスタッフさんの登録も多分1,000人くらいあるのかな…。多いときだと100人くらいボランティアさんに来ていただいたりするんですけれども、しっかり彼らにも、誰にでもできる単純作業よりは、ミッションとして渡していったほうがいいのかもしれませんね。
三浦:例えば、年に3回以上試合を見に来た人には、「プロサポーター登録書」っていうのをあげるとか。それで、Webサイトとかで、プロサポーターとして何ができるか書いてもらって、実際にそれをお願いしていくとか。そういうのがいいかもしれないですね。
村上:コミュニティ作りっていうところは、クラブとしてリードできていないんですよ。それぞれ、それもいいところだとは思うんですけれども…。
三浦:自然とできているのね、きっと…。
村上:はい。自然にできていて、それぞれその中の人たちに幹事役がいたりとか、役割分担しながらやってもらっているんですけれども。でも、クラブが率先してステータスをあげるみたいなこと。より、新しいコミュニティ作りというところは、クラブがリードしていくべきなのかなと、お話を聞いて思いました。
三浦:そうですね。コミュニティ作りっていうのは、変に「みんなで一緒に盛り上がろうよ」っていうよりは、役割を与えてあげることなんですよね。「あなたには、これを頑張ってほしいです」っていう。人はやっぱり、お金よりも感動したいんで。で、「感動」って何かっていうと、与えられるよりもやったほうがいいんですよ。
料理を食べるのも感動するけれども、結局作って食べてもらったほうが嬉しいじゃないですか。じゃ、どうやったら、自分たちが感動する側に巻き込まれることができるのか。そこはまだ僕、具材分からないですけど。せっかくこうやって、すでにYou Tubeで始められている方がいるので、そこ一緒に考えてあげるようなやり方ができたらいいかもしれないですね。
サポーターに感動体験を広く深く届けるには
三浦:感動っていうことをゴールに置いたら、究極、負けてもいいわけじゃないんだけど…。でも、負けても感動することって、やっぱりあるじゃないですか。
最近だと、格闘家でYouTuberの朝倉未来さんが、キックボクシングの試合で負けましたよね。彼が、You Tubeで涙しながら「もうちょっとファンのみなさん、待っていてほしい」って言ったときに、すごい人気上がったんですよね。だから、スポーツのいいところって、もちろん勝ちを目指さなきゃいけないんだけれども、それが本当に勝利を目指して命がけでやっているときには、逆に敗北もすごくドラマになったりすると思うんです。感動ということが本当に価値だと思うのであれば、それをどうやったら作っていけるのかを一緒に考えていくっていうことだと思いますよね。
村上:負けた試合で、感動させられるのは最高の試合をしている時かもしれないですね。
三浦:もちろん。ウチの会社で応援している青木真也という格闘家がいるんですけれども、彼もよく言うんですが、格闘技の世界、スポーツの世界はなんでもそうだと思うんですけど「負け太り」っていう言葉があるんですよね。負けたんだけど、そのことによってファンがすごく応援してくれて。もちろん負けは悔しいんだけれども、それによって成長するとか、人気があがることって、たまにあるんですよね。
負け太りできるやつが「本物の表現者」だってことを、彼はよく言っていて…。もちろん負けてもいいよ、じゃなくて、ぜったいに負けたくない、ぜったいに勝ちたい、と思っているときだからこそ、負けに意味があるんですけれど。そういうことも、もしかしたらヒントになるかもしれないですね。
村上:そうですね。どうやってそういう感動体験を…。もちろん、試合で追求するし、その試合に至るまでも、どれだけそういうプチ感動みたいなものを繰り返していけるか、というところがヒントになると思いました。どうしても「いつもの2,000人」…。どうやって新規をとるかっていうところに、5,000人いくのには3,000人いるよね、とか(に目を向けてしまいます)。
優れた経営者はプラスよりもマイナスに目を向ける
経営者はプラスよりもマイナスに目を向けるべき
村上:あとは、サッカー界って結構、コア度が上がっていくと、怖くなるところもあるので…。他のクラブで教えてもらったのは、そういう罵詈雑言とか、暴力的な言葉とか、不快感があると「もう行きたくない」って思っちゃうお客さんが多いから、いかにマイナスの感情を減らしていくのか…。
三浦:それ、すごい大事で。経営とか、事業を作っていくときに、みんなすぐプラスを考えるんですよ。どうやったら新規顧客が集まるかとか、どうやったらもっと話題になるか。
でも、まず一回ゼロを目指すプロセスが大事で。今、顧客が来るのを邪魔しているものは何か。今、ユーザーが不快に思っていることは何か。プラスを作る前に、一回ゼロの状態を作ることをまずやったほうがよくて。
恋愛でもそうじゃないですか。彼氏がすごく頑張って、誕生日にいいプレゼントをくれたりとか、いろいろやってくれて嬉しいんだけど、一個のマイナスで一気に嫌いになるじゃないですか。すごい失礼な言い方をしたとか、店員さんへの態度が嫌だったとか、タクシーの運転手に対してオラオラしていたとか、自分の好きなものを馬鹿にされたとか…。もう、それで終わりじゃないですか。それと一緒で、一回マイナスを減らしてゼロにするっていうところを先にやるのはすごく大事で。
さっき言った、コミュニティのメンバーをどうプロにしていくかとか、2,000人をどうやって仲間にしていくかとか、選手と世間との接点をどう作るかとか…。これ全部プラスの話なんですけれども、マイナスをゼロにする視点は持っておいたほうがいいです。
ネガティブ要素を聞き出すヒアリングノウハウ
村上:そうですね。ちょっとそこの解像度がまだ低い…。クラブ内で何をするかっていうと、プラスの話ばっかりしてるんですよ。イベントも、新しく何をするかっていうところで。結構、クレームとかもくるんですけれども、やっぱり声の大きい人たちで、サイレントマジョリティーがどう思っているのかとか、その辺の解像度が全然上がってきていないのが…。
三浦:これね、いい質問の仕方があって。「今、あなたの会社や、あなたのサービスに対する満足度は何点ですか?」って聞くんですよ。そうするとみんな60点とか70点とかって答える。「じゃあ、どうしたら100点になりますか?」って聞くんですよ。そうするとだいたいみんな、マイナスのことを言ってくれるんですよ。
だから「不満はありますか?」とか「どうしたらよいと思いますか?」って聞かれると答えにくいんですよ。でも、「今、何点ですか?」「70点です」「じゃあ、どうやったらあと30点上がって100点になりますか?」って聞くと、結構みんな具体的に言ってくれるんです。これ、よかったら使ってください。
村上:ありがとうございます。そういった調査も、大掛かりにやるとなかなかコストがかけられないところがあるんですが、すごく距離感近く…。
三浦:調査なんかしなくていいんです。フツーにご飯いって、ファンの方とお茶することのほうが全然大事です。
宮嶋:ちなみにJ2に昇格して春からの目標って…そこも「優勝」なんですか?
村上:最終的には優勝ですね。ただ、実力の中で急に優勝までいけるのかっていったら…。ファン、サポーターの人たちも「愛媛FC、寝言は寝て言え」って言われるところがあるかな、と。とはいえ、勢いがあるチームは優勝する可能性がゼロではないので、もちろんそこは狙いつつ。我々としては、現実的な足りないところを、勢いだけで勝ち上がるということではなくて、力をつけるっていう意味ではちょっと低い目標にはなるかな、とは思います。まあ、プレーオフくらいのところ…。
愛媛FCのネクストアクションは?
宮嶋:今日のお話を聞かれてみて、ネクストアクション「これ、やろう!」はどれになりそうですか?
村上:最後の「ネガティブなところを徹底的に排除する」をまずはやっていかないと、増えていかない気がしました。2,000人は来てくれているんですよね。で、2,000人が(人を)呼びたくなるには、ネガティブなところがあると誘いにくいと思いますし、せっかく来てくれた人が不快な思いをして帰ってしまうとリピーターにはつながらないと思うので…。
あとは、サポーターのみなさん、ファンのみなさんへ、コミュニティのミッションを作っていく。それをどう表現して、見える化して、ステータスにしていくのかというところをやっていきたいです。
どうしても5,000人に上げたいとか、1万人の感動をっていって、最高峰を知ったので、どうしたらこれを再現できるんだろう、っていうのを考える…。そこはなかなかハードルが高いなっていうところが…。
いろんなイベントをやってみても、あんまりサッカーを観ることにつながらない。やっぱり、そんなにサッカーが好きじゃない人からすると「90分間」って結構長くてしんどい時間なので、そこを耐えさせられないなとか、いろいろ複雑に考えていたところがありました。なので、まずはシンプルに「嫌な思いをしちゃうことって何なのか」「優勝経験までいかなくても、小さな感動をどう作れるか」「サポーターの人たちに役割」…。多分、来てくれている人たちって、ある意味、使命感があると思うんですね。アウェイ遠征で八戸まで行くのって、ただ好きで行っているっていうよりかは、「行って応援してあげなきゃ」っていう使命感でやってくれているところがあると思うので。そういった役割、コミュニティで大事にされているとか、そういったことを感じてもらえるようなことをやっていきたいなと思いました。
三浦:僕が言っていることは、正直、現場のことを分かっていない人間の面白アドバイスっていうか、概念論でしかないんです。まずは、今日話したことが少しでも役に立って一歩でも実現させてもらえるなら…。
本当に具体的に動くことが大事なんで。いかに発想しても、結局、実装というか、アクションが動かないと何もできないので。本当にどんなやり方でもいいので、ぜひちょっと一歩目、進んでもらえたらいいなと思うし、僕も機会があったらぜひ、試合を見ていきたいんで。一番感動できるときに、呼んでもらえたら…。
村上:はい。感動できる試合をピックアップしてご連絡させていただきます!
三浦:「ここです!!」っていう(笑)。ぜひ呼んでください。