40名ほどの小さな会社でありながら、ファミリーマートのブランディングやユニクロのプロモーションまで手掛ける、The Breakthrough Company GO。今回は、同社の代表でありクリエイティブ・ディレクターの三浦崇宏さんに、クリエイティブの本質や、クリエイティブに必要な「2つのこと」。そして、資本主義の限界に挑むために企業がすべきことについて、詳しくお聞きしました。
目次
- 常識の向こう側へ行くために
- GO三浦が語るDXの本質
- 変わりゆく「常識」 テクノロジーやモラルの変化
- マーケ・PR・クリエイティブ3職種を経験して見えたこと
- クリエイティブで社会の変化と挑戦にコミットする
- 社会に新しい変化を仕掛ける集団「GO」
- 「クリエイティブ」の本質とは
- クリエイティブに必要な2つのSOZO
- アップル・トヨタ・ユニクロの共通点
- アップル・トヨタ・ユニクロ3社の共通点
- 経営者に必要なのはお客さまの感情を想像する力
- 政治・医療・福祉 クリエイティブが入る余地
- 資本主義の限界とクリエイティブ
- リピーターを増やすために必要な2つの方法
- 強いブランドをつくる2つの必要要素
- ブランド化には物語性と希少性が必要だ
- 体験を変えるサービス化
- 日本経済を救う鍵は、ブランド化とサービス化
常識の向こう側へ行くために
GO三浦が語るDXの本質
今回は「DX特別講座」となっていますが、DXってデジタル・トランスフォーメーションですよね。でも、大事なのは「トランスフォーメーション」の方なわけですよ。要は、デジタル・トランスフォーメーションしてもいいかもしれない。あるいはもっと大事なのはサステナブル・トランスフォーメーションかもしれない。企業が男性女性の偏りをなくすジェンダーのトランスフォーメーションが必要かもしれない…。などなど、いろんなトランスフォーメーションが、今求められているわけです。
変わりゆく「常識」 テクノロジーやモラルの変化
実際に世の中を見ていても、例えば3年前だったら怒られなかったことが、今、それを表で言ったら炎上するというようなことがたくさんありますよね。5年前だったら、リモートワークなんて失礼だと思われていたけれど、今だったら普通に東京と松山でリモート会議したって、何も問題ないですよね。
つまり、テクノロジーとかモラルとか常識とか考え方とか、どんどん変わってるんですよ。そこで、企業や個人のあり方が一緒に変われるか。それとも変わらないで取り残されてしまうのか…っていう状況に2023年、僕もみなさんもあらゆる人々がそういう状況の中にいるわけです。
そんな中で、どうトランスフォーメーションしなきゃいけないかが重要であって、デジタルのトランスフォーメーションだけが重要なわけじゃないと思っています。
だから今日、僕がみなさんと一緒に話したいのは「いこう、その先へ」。当社のキャッチコピーでもあるんですけれども、どうやって今いる自分たちの向こう側へ行くのか。今いる自分たちが常識の壁、経営の壁、あるいは人材の壁、地方の壁、いろんな壁があると思うんですけれども、その壁を、どうやったら考え方を変えて、壁じゃないと思って遠くへ行けるか、向こう側へ行けるか。
そんなことを、今日は一緒に話していけたらいいと思っています。
マーケ・PR・クリエイティブ3職種を経験して見えたこと
僕は、大学を卒業して博報堂という大手広告代理店に入社しました。普通は広告代理店って、例えば営業で入ったらずっと営業みたいに、縦割りで成長していくんです。ただ、僕の場合は最初クリエイターになりたかったんですけれども、マーケティングに入ってマーケティングの勉強をして。PRという部署でメディアとの関係づくりとかをやって、そのあとクリエイティブにいったという…。10年間いたんですけれども、マーケとPRとクリエイティブと3職種経験したんですね。これ、すごくめずらしいんですよ。
なんでかというと、単純に各部門で問題起こしてたらい回しにされたっていう(笑)偶然のキャリアなんですけれども、それによってあらゆる企業の経営課題から、マーケティング課題まで、全部見ることができるようになったっていうのが、僕のちょっと特殊なところ。それがあるので、今は独立していろんな会社とお仕事させてもらっています。
今までの仕事でいうと、例えば朝日新聞さんと一緒に新聞広告をやっています。分かりやすいところでは、ファミリーマートの「ファミマル」っていうプライベートブランドがあるんですけれども、それの商品開発から、ブランディング、プロモーションまで、全部やっています。あとは、マンガのキングダムのプロモーションとか、アパレルのユニクロのプロモーションとか、ちょっと変わったところでいうと、自民党の広報戦略のサポートをしていたりとか。そんな仕事をたくさんしています。
僕の会社は、立ち上げてから7年目です。いま大体40人くらいで、売上が35億円。クライアントの数は160〜200社くらいになっています。
小さい会社にしては、結構いろんなクライアントさんとお仕事させていただいてます。40人で35億円って、フロントプレイヤーでいうと一人あたり1億円以上の売上を叩き出しているので、結構めずらしい会社だと思っています。
クリエイティブで社会の変化と挑戦にコミットする
社会に新しい変化を仕掛ける集団「GO」
僕らの一番大事なコンセプトというか、ビジョンというか…。一番ど真ん中に置いているのは、「クリエイティブの力で、社会のあらゆる変化と挑戦にコミットする」ということなんです。
広告代理店というと「CMを出したい」「チラシを出したい」「商品をデザインしたい」とか、そういったオーダーをいただくと思うんです。でも僕らは、その手前にある「とにかく新しいチャレンジがしたい」「会社として変わらないといけないと思っている」そんなご相談をいただきます。「じゃあ、どう変わりましょうか?」そのための手段として、CMやデザインを使って考えていきましょう、というような仕事の仕方をします。
僕らは、CMやデザイン単発での依頼はほとんど受けていなくて。基本的にはその会社の、マーケティングなのか経営変化なのか、「どう変わっていきたいのか」「どういうチャレンジをしたいか」を聞きます。そこから、大体半年から1年くらいの契約をさせていただいていて、コンサルティングとか、場合によっては、マーケティングの戦略を考えたりとか、CMを作ったりとか…。そんな非常に変わった、フィーの契約をする仕事の仕方をしています。
さきほどご紹介した以外にも、コーセー「雪肌精」の羽生さんのCMだったり、ソニーネットワークコミュニケーションズのNUROのCMだったり、あとは東京で「木曜日に本屋に行こう」っていう「木曜日は本曜日」っていうキャンペーンをやったりとか…。
ちょっと特殊なのが「ザ・クリエイティブアカデミー」っていう、クリエイターと起業家や経営者向けのスクールをやっております。今オンラインで1,000人くらいの方が受けてくださっているんですけれども、オフラインで東京で50人くらいの方向けにやってます。日本でトップのマーケター、クリエイター、経営者、起業家が生で、本気で2時間自分たちの仕事の話を一個一個のケースの裏側も含めて、かなりしっかり話してくれるので、面白いかなと思っています。
あと、スタートアップ向けの投資ファンドを持っていて。電動キックボードのLUUP(ループ)とか、高級不動産のNOT A HOTELとか、そういったところに投資をしながら、その会社のブランディングを成長させていくことを一緒にやっています。
「クリエイティブ」の本質とは
今日、みなさんと一緒に話したいのが「クリエイティブとは一体何か」っていうことなんですよね。僕の仕事の場合、ちょっと特殊なもののように思われることが多いんですけれども、そういうことでもないんだよっていうお話ができたらいいなと思っています。
「クリエイティブ」っていうと、どうしてもデザインのこととか、コピーライティングとか、映像を作る力とか…。そんなふうに思う方が多いと思うんです。でも、実はクリエイティブっていうのはそういうことでもなくて、それらはすべて断片的な「技術」でしかないと思うんですよ。
今日は、サッカーが好きな方がいらっしゃると思います。例えば、リフティングとかパスとかそういった一個一個の技術はもちろん大事なんだけれども、その手前にある運動神経とかスタミナとか筋力みたいな、運動能力が必要になりますよね。
クリエイティブっていうのは、まさにそこの部分。これらすべてを可能にするための、根本的な力のことをクリエイティブと言います。「クリエイティブとは想像し、創造する力」僕らは、こういうふうに定義しています。
具体的に言うと、イメージする力があって、その上でクリエイションする力がある。それは実は、まったく別のことなんだけれど、その両方があって初めてできるということです。
具体的に言うと、イメージする力があって、その上でクリエイションする力がある。それは実は、まったく別のことなんだけれど、その両方があって初めてできるということです。
例えば、自分の大切な人とか友人、お客様、あるいはそれを受け取る世の中の人々のこと。そういった人々のことを、しっかりと想像すること。どうやったらあの人が喜んでくれるかな?どうやったらお客様がお金を払ってくれるかな?どうやったらおかわりしてくれるかな?というような、相手に対する想像と、未来とか社会がどうなったらいいかな?っていうふうに想像する力。
この自分の大切な人やお客様の感情、あるいは社会のちょっと未来のことを想像する力があって、それをベースに新しいものを生み出していく…ブランドやサービスや企業の新しい可能性を生み出していく…。
クリエイティブに必要な2つのSOZO
想像する、イメージする力と新しく生み出す力。この2つがあって初めて、クリエイティブだと僕は考えています。これが想像するだけで終わってしまってはもったいないし、相手の感情のことを一切考えないで、自分の好きなことだけやったって、それはビジネスにはならない。
想像することと、創造すること。この2つがあって初めて、僕たちはクリエイティブの力と言っています。ちょっと先の社会の未来の話や、目の前にいる、あるいは、どこか遠くにいる誰か大切な人のことを考えて、世界に新しい可能性を創造すること。それをクリエイティブの力というふうに理解してもらえるといいかな、と思っています。
「他者の感情や社会のあるべき姿を想像し、現実に新しい可能性を創造すること。」
多分、そんなに難しいことでもないんですよ。例えば、恋人でも奥さんでも旦那さんでもいいんですけど、例えばその人の誕生日に何をしてあげたら喜ぶかな?どんなことをしてあげたら悲しい顔をしないですむかな?どうしたら驚いてくれるかな?多分誰もが考えたことがあると思うんですよ。その、相手の感情を考える、ということを、顧客だったらどうするか、メディアだったらどうするか、クライアントさんだったらどうするか…。そういう気持ちを持って、そのために自分がどう変われるか、自分の商品で何ができるか、そんなことを考えることを「クリエイティブ」と考えています。
顧客、生活者、ターゲット…いろんな言い方があります。あらゆる人の感情を想像し、今の社会をよりよくする未来を想像し、自分の仕事なのか、自分の商品なのか、自分の会社なのか…それがもっと受け入れられる未来を作っていく。これがクリエイティブの力だと思ってもらえたらいいと思います。
今日はこの話だけ覚えてくれたら、正直、後の話はなんとなく参考にしてもらえばいいかなと思ってるんですけれども。
この、イメージとクリエイションの2つの「SOZO」がクリエイターの仕事。だから、顧客や社会の課題を解決できるわけです。デザインの力とか、コピーを書く力とか映像を撮る力みたいなのは、後で考えればいい話。みなさんの事業、みなさんの仕事、みなさんの商売でどういうふうに考えたらそれができるのか。それを、考えてもらえたらいいかなと思っています。
アップル・トヨタ・ユニクロの共通点
アップル・トヨタ・ユニクロ3社の共通点
例えば、アップルはiPhoneという電話を作りましたよね。これ、すごく便利ですよね。でも、このiPhoneというものが、世の中に出た2007年当時、iPhoneよりも優れたスマートフォンはそれなりにあったんですよ。もっと速いとか。もっと使いやすいとか。だけれども、スティーブ・ジョブズはもともとカリグラフィーという文字のデザインの専門家だったこともあって、使ったときの美しさ…アイコンの動かし方、画面の遷移とか、そういったことが顧客にとって最も重要なはずだ、と考えて作ったのがiPhone。それがもっと優れたテクノロジーや、もっと速いコンピューターがあったにも関わらず、今こうやって世界を席巻したわけです。
トヨタは、ウーブン・シティプロジェクトといって、世界中に自動車を売り尽くした先に、「これ、もう車を売り続けても未来はないかもしれないな」と、あらゆる人の移動がスムーズになる、快適に移動できる町、都市を作ろうと、都市開発のプロジェクトを始めました。
ユニクロはニューヨークに店を出すに当たって、どんなことをやったか?CMをたくさん打つ、ニューヨークの有名なタレントを使う、いろんなことができたはずですよね。でも、彼らは「MoMA」というニューヨーク近代美術館に対して、自分たちがスポンサードすることによって、毎週ある1日だけ、あらゆる人が無料で入れるようにしました。それによって、ニューヨーカーはユニクロのことを「日本から来た新しい服屋さん」じゃなくて「我々のことをめちゃめちゃ愛してくれている、理解してくれているすごいブランドなんだ」と認識し、一気に普及したっていう事例があります。
これ、3つとも論理的に考えていることじゃないんですよ。
コンサルタントに「ウチの会社の売上を伸ばしたいからどうすればいいですか?」って聞いて出てくる答えじゃないんです。お客様とか自分のブランドの未来とか、その町の未来とか、本当に自分たちの商品が欲しい人がどんなことを考えているか。一生懸命その感情を想像して、それによって生まれたのがこういったプロジェクトです。
経営者に必要なのはお客さまの感情を想像する力
論理と効率を追求するだけではなくて、お客様の感情とか世の中どうなったら素敵かな、っていうことを想像した先にあるものを考える。これがクリエイティブの仕事です。それは経営者の仕事でもあり、マーケターの仕事でもあり、同時に店頭にいる一人ひとりでもできることですよね。どうやったらお客様が喜んでくれるかな?どうやったら自分の店がもっと素敵になるかな?どんな場所にいても、どんな仕事をしていても、クリエイティブの仕事の価値っていうのは、使うことができるということを知ってもらえたらと思います。
コンサルタントでは絶対考えが至らない。非連続なのに、でもなんかリアルで儲かりそうでワクワクする。そんな仕事ができたらいいと思っています。
広告市場って、7兆円あるんですよ。でも日本の総予算は980兆円あるので、1%にも満たないんです。それをいろんな会社が奪い合ってる…。そこに、できて7年のたった40人しかいないウチの会社が入っていっても、あんまり意味ないんですよね。
政治・医療・福祉 クリエイティブが入る余地
僕らがやりたいのは、例えば政治、医療、福祉。まだまだクリエイティブの仕事がお力添えできていないところがたくさんあるわけですよ。もしかしたら地方行政もそうかもしれない。そういったところに我々クリエイティブの専門家が入って応援することによって、日本の産業の市場を1%でも伸ばすことができたらすばらしいじゃないですか。
それで、僕たちはスタートアップとか、自民党さんとか、普通のクリエイターたちが普段は仕事をしない相手と一緒にやってる。今は福岡市のPRのコンサルタントや、金沢市の都市設計のお手伝いもさせてもらっています。地方も含めて、僕らが普段やっているクライアントさんとは違う、新しい可能性、クリエイティブの力によって広がっていく場所を探したい…そんなふうに思っています。
資本主義の限界とクリエイティブ
クリエイティブっていうものが求められている、ということがあります。それはなぜか。みなさん「資本主義経済の限界」って聞いたことがあると思うんですけれども、これは具体的にどういうことか。
資本主義って、基本的には企業が成長していくことを前提にしています。例えば今年1万円のものを、100人に売ったとします。ということは資本主義の限界でいうと、来年は1万円のものを200人に売らないといけないんですね。成長しないといけないから。でも、結構難しい話なんですよ。
これ、高度経済成長期と言われている日本…会社も人もどんどん増えていって、国として成長していた時代だったら、できたんですよ。今年100人のものを1万人に売ったら、来年はその100人の母数が200になっているので自動的に売れるっていうことですね。
でも、今ってそうじゃないですよね?人は減っているし、お年寄りは増えているし、どうしてもモノを買ってくれる人は減ってしまう。だから、人口減少社会が資本主義の仕組みを変えたわけです。多分、資本主義を作ったヨーロッパの経済学者たちも、あんまり想像してなかったはずです。「え?人口が減るってあるの?」「じゃあ、資本主義無理じゃん」ってなったぐらいの、常識の変化が起きているわけです。
世の中のほとんどのことは「昔は正しかったけれども、今の社会でやるとちょっとムズいよね」っていうことを、無理やり進めようとするからトラブルが起きる…っていうことはたくさんあります。
「資本主義」という、我々のビジネスの根幹にある考え方そのものが、ちょっと上手くいかなくなってるかもしれない。だから、みなさんが自分の仕事や自分の事業をトランスフォーメーションさせようとするのは、めちゃめちゃ当たり前というか、必要なことなんだと思ってください。
じゃあ、何をやらなきゃいけないか。やることは2つです。1つは値上げ。今年は1万円のものを100人に売りました。じゃあ、成長するためには来年1万5千円のものを100人に売ればいい。
日本って、どうしても値下げ競争みたいなことをやってしまうけれども、それって、人口が増えていたから成立する話なんですよ。人口が減っていって、国自体の購買力が落ちているときに値下げ競争なんてやっていたら、全員、破滅します。「値上げ」って日本社会では悪いことみたいに言われているんだけど、それが今、求められている時代。では「どうやったら値上げできるか?」っていうことを考えないといけないんですよね。
あるいは、リピート。今年は1万円のものを100人に売ったら、来年は1万円のものを100人に2回ずつ買ってもらうためにはどうするか?
「値上げ」することと「リピート」してもらうこと。この2つが基本中の基本です。
リピーターを増やすために必要な2つの方法
値上げするためにはどうすればいいかというと、ブランドにしないといけない。リピートしてもらうにはどうすればいいかというと、サービスにしないといけない。この2つがクリエイティブの力によって発想するために必要な2つのことです。じゃあ、このブランド化。値段を上げるために、どんなことをするか。
これ、我々が作ったものなんですけれども、これは「雨下(うか)」という日本酒です。
これは、茨城にある明利酒類っていうメーカーが僕らに相談してきたもので、今、グローバルでも非常に評価されています。
これは、茨城にある明利酒類っていうメーカーが僕らに相談してきたもので、今、グローバルでも非常に評価されています。
ワインは、世界中で100万円、場合によってはもっと高いものがたくさん取引されている。でも、日本酒はこんなにおいしいし、バリエーションがあるのに、高くすると怒られるし、売れなくなっちゃう。「なんとかして、世界から受け入れられる高い日本酒を作っていきたい」と相談されてできたのがこのお酒です。
日本酒って、基本的には樽から機械で絞って落としたものを集めるわけですね。でも、その絞ることによって圧力、摩擦が生まれるので、結果、どうしてもその熱によって雑味がでてしまう。これは、しょうがないんです。
ただ、「雫絞り」というやり方があって。一切絞らないで、ポツンポツンと重力によって落ちてくる雫だけを集めたお酒を作ることもできるんです。それを「雫絞り製法」といって、一部の日本酒メーカーはやっています。ただ、それはめちゃめちゃ高いし、一般には流通されない。すごくお世話になっている人に渡すとか、記念日とかにしか出さないんですよ。
それを、僕らは「雫落とし」という言い方に名前を変え、商標をとったんです。その製法で、ポツンポツンと雫で落ちてきたお酒だけを集めて売っているのがこの「雨下」です。だから結果的に一切余分なストレスがかからないので、めちゃめちゃ透明な透き通った味わいになっています。もう、他のお酒とは全く違う、一切のストレスがかからない状態で作られたお酒です。
その「雫」という文字を分解して雨の下、雨下としました。この言葉自体はグローバルでも「UKA」。母音と子音の一文字ずつの組み合わせって、世界中のあらゆる人々にとって耳馴染みがいいんです。ボトルも雫の形になっています。これが今、33,000円なんですけれども、日本国内で年間1,000本、グローバルで1,000本というところで、ほぼ世界中で半年足らずで完売しています。それくらい、ブランドを作る、こういった意味とストーリーを作ることによって「モノを高く売る」ことができるということです。
強いブランドをつくる2つの必要要素
ブランド化には物語性と希少性が必要だ
ブランド化するのに必要なものって、大きく2つあります。物語性と希少性です。要はそれがどのような人の手によって生まれたのか、それによってどんな価値があるのか、語りたくなるような物語の力。
そしてそれが「少ないんだよ」「なかなか手に入らないんだよ」ということを、伝えていくこと。ブランドは物語性と希少性によって生まれます。この話をすると必ず言われるのは、「じゃあ、モノがダメでもいいんですか?」それはダメ(笑)。モノも良くないといけない。だから正確に言うと、品質と物語性と希少性です。それによってブランドができる、ということを覚えておいてください。
体験を変えるサービス化
もうひとつ。体験を変える。サービス化です。サービス化するにはどうすればいいか。例えば、僕らがやったことでいうと「ワークスタイリング」というオフィスがあります。
これは日本中で、三井不動産が展開しているシェアオフィスです。シェアオフィスって、クリエイターとか起業家とかスタートアップとか、ちょっと変わった人が使うものっていうイメージがあったんですよね。
これは日本中で、三井不動産が展開しているシェアオフィスです。シェアオフィスって、クリエイターとか起業家とかスタートアップとか、ちょっと変わった人が使うものっていうイメージがあったんですよね。
でも、三井不動産という日本最大のデベロッパーがやる以上は、誰もが使えるシェアオフィスを作らないといけないと思いました。日本における普通の人っていうのは、会社員なんです。7〜8割が会社員なんですね。会社員は、勝手にシェアオフィスとか使っちゃいけないんですよ。上司の許可が必要。じゃあ、上司に許可してもらうにはどうしたらいいかというと、あらかじめBtoBで企業から三井不動産が発注してもらう。
それで、例えば「GOという会社の社員の三浦が、今日は豊洲のオフィスで3時間働いた」っていうのが、入退室管理をスマホにすることによって記録で分かるようにしました。企業にとっては、自分のオフィス以上に労務管理が簡単になるんですね。なので「BtoB」のビジネスモデルに変えて、なおかつユーザーにとっては、自分の好きなところで働けて、自分が何時間どこで働いたのか全部分かるようにする、っていう体験に変えました。用途に合わせたさまざまな体験設計をして、スマホで管理することによって、会社も社員も誰もが安心して使えるシェアオフィスになった。これ、松山も含めて日本中にめちゃめちゃ広がっています。
サービス化するときには、体験を磨き込む必要がある。大きくは「リッチ化」する方向と「希薄化」する方向があります。
例えば、レクサスって、納車式で店中の人が拍手してくれて、花とかワインとかくれる。ああいう派手なサービス、丁寧なサービスによって、セレモニーのようにしていくほうが「リッチ化」。
もう一つは、みなさんがサプリとかコンタクトレンズとか買うときに、知らないうちに自動的に引き落とされて毎月家に届くことがありますよね。いわゆるサブスクモデルみたいな。そのように、自分が「購入している」という気持ちを、一切忘れさせるパターン。この派手にするセレモニー化と、体験を希薄にしていく方向の2つがあって、どっちでもいいんですよ。
サービス化していく、お代わりしてもらうためには、こんなふうに体験を厚くしていくのか、薄くしていくのか。やり方によりますけど、体験を磨き込むことによってサービス化する。それが、結果的にリピートを生む、ということをイメージしてもらうといいかな、と思います。
今の日本経済、資本主義経済が限界を迎えている。だから、普通に商売していたら全員先細りです。全員ですよ。だって、市場が狭くなっているんですもん。
日本経済を救う鍵は、ブランド化とサービス化
めちゃめちゃ勝っている会社も、あまり上手くいっていない会社も全員沈んでいきます。だから、単価を上げるか、リピートしてもらう仕組みを作らないといけない。日本経済を救う鍵は「ブランドを作る」ことか「サービスにしていく」こと。大きくは、この2つです。
そして、この2つどちらにも、クリエイティブの力が必要だよということです。ブランド化するにも、サービス化するにも、顧客感情…どうやったら喜ぶかな?どうしたらこの商品を高くても買ってもらえるかな、ということを想像すること。そして市場がどうなっていくかをイメージすること。そして結果的に企業や商品の新しい可能性を創造する、クリエイティブの力が必要になるということです。
今日お話したことが、少しでもみなさんの力になれば…。デジタルでもなんでもいいです。トランスフォーメーションする、最初の一歩目になればいいかなと思います。