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【#えぞ財団】 連載企画「#北海道経済入門」⑤ ~<番外編>地政学入門 / 北海道とロシア・前編~

【#えぞ財団】 連載企画「#北海道経済入門」⑤ ~<番外編>地政学入門 / 北海道とロシア・前編~

えぞ財団 2022年3月23日

北海道経済入門とは?


この連載では、小樽商科大学3年生の神門崇晶(カンドタカアキ)が北海道経済についての「今さら聞けない」 という部分を探っていきます。例えば、北海道の経済の大きさはどれくらいなのか?それを構成する北海道の主要産業は何か?など北海道経済の基本的な部分を理解していくことをインフォグラフィックを通して試みるプロジェクトです。

神門崇晶(かんどたかあき):小樽商科大学3年生。
札幌北高校を卒業し1年間の浪人生活を経て、小樽商科大学に2019年に入学。同年11月に「カレーパンドラ小樽商大店」をオーナーと共にオープン。コロナ禍により同店を休業し、2020年にYoutubeチャンネル「おたる再興戦略室」を開設。これをきっかけに、2021年4月から「札幌解体新書」の学級委員長を務める。2020年からFMラジオ局で「神門たかあきのラジオしか勝たん!」という番組をもつなど様々な活動を行っている。


導入


さて、ウクライナ情勢がますます厳しくなってきています。
ロシアがウクライナに侵攻してからの約1ヶ月間、いままであまり聞くことのなかった、「地政学」という言葉を頻繁に聞くようになったかと思います。
ですが、地政学という言葉の意味や本質に触れられずに、単なるバズワードの如く出てくるだけで終わっているように感じられます。
もちろん、いま世界で何が起こっているのか、ということを伝えるのはジャーナリズムの重要な責務だと考えています。しかし、それと併せて「なぜ、このような事態が起こっているのか」という根源的な部分を探ることはそれと並んで重要だと思います。

そこで今回・次回は、「地政学」という観点を加えた番外編をお送りします!
まず、今回の記事では、数冊の書籍を引用しながら地政学について学んでいきたいと思います。そして、北海道とロシアの歴史的な関係性を歴史的な観点も加えて日露戦争まで見ていきます。

次回は、経済に主眼を置いて、北海道とロシアの関係性を日露戦争から現在まで見ていこうと思います。 

本日のインフォグラフィック


そもそも地政学とは?


僕は、地政学についてはほとんど知りません。
どうやら日本では地政学を学べる場所が、大学でもほとんどないらしいのです。つまり日本国内において地政学は学問として未発達であるため、それに関する書籍も少なく、十分に学べる環境ではないのだと思います。

では、そもそも地政学とは何なのでしょうか。

地政学とは、簡単にいうと「国の地理的な条件をもとに、他国との関係性や国際社会での行動を考える」アプローチ。

とされています。

つまり、地政学とは地理的思考を国家戦略に活用したものです。
そして、かつての大国たちはこれに基づいて外交を行ってきたということです。
ここで重要な点は、「地理的思考」という部分です。
なぜなら、地理的な条件は大規模な地殻変動が起こらない限り、何千年と変わることはないからです。この地理的条件は、国家の運命を既に決定づけていると言っても過言ではありません。
『大国の掟』の著者、佐藤氏はこのように述べています。

重要なのは、表面的な情勢がどう動いたとしても変動しない「本質」を把握すること。言い換えればアメリカをはじめとする「大国を動かす掟」について理解を深めることなのです。(略)それは、国際情勢の背景にある「変わらないもの」に着目することです。 
佐藤優『大国の掟』、NHK出版新書、2016年、p. 9

地政学の開祖、マッキンダー


地政学から連想される戦略家は数多くいるのですが、その中でも後世の研究者たちから地政学の開祖とされているのが、 19世紀末から20世紀前半にかけて活躍した、イギリスの地理学者ハルフォード・マッキンダーです。

彼自身は一度も「地政学」という名称を嫌い、1度も称したことはないそうです。ただ、現代地政学は彼の理論を基本として体系化されているので、経済学でいうアダム・スミスのようなポジションだと思います。
ここからは、中野剛志『富国と強兵』から多く引用していきます。


地政学では、シーパワーとランドパワーが対比されます。
19世紀末までは、強大なシーパワーをもつ国が世界の覇権を握っていました。
15世紀のスペイン・ポルトガル、17世紀のオランダ、19世紀のイギリスとまさにシーパワーが覇権国家の盛衰に深く関連していました。
覇権国家の盛衰については、以下の書籍がおすすめです。


「シーパワーが世界の覇権を左右する」という論調がメジャーだった時代、マッキンダーは「地理学からみた歴史の回転軸」という論文を1904年に発表しました。これが彼を一躍有名にさせます。
この論文で主張されたのは、これからは、ユーラシア大陸内陸部を支配するランドパワーが世界の覇権を握る時代となり、ユーラシア大陸の内陸部は世界を動かす「歴史の回転軸」となる、ということです。これを可能としたのは、陸上輸送技術の発達によるユーラシア大陸を横断する鉄道、つまりシベリア鉄道です。
この主張をより発展させたのが、1919年に発表した『民主的理想と現実』です。ここでは、回転軸は「ハートランド」と改称されました。そして、彼はこのような公理を提示しました。

東ヨーロッパを制するものはハートランドを制す。 
ハートランドを制するものは世界島を制す。
世界島を制するものは世界を制す。

マッキンダーは、東ヨーロッパ諸国の独立を維持し緩衝地帯とすることが、ロシア・ドイツの勢力拡大を注視していたイギリスにとっては、戦略的に最重要と考えていました。

この定理が提示されてから20年後の1939年、東ヨーロッパのポーランドに侵攻しました。そして、ソ連との間で不可侵条約を結び、ポーランドを分割支配します。
つまり、当時のランドパワーはロシアではなくドイツが握っていたということです。おそらく、プーチンがしきりにナチス・ドイツを口に出しているのはこのような背景があるからではないでしょうか。
このようにランドパワーが覇権国家を決める重要な要素になった時代から、ウクライナを含む東ヨーロッパは「ハートランド」として、ランドパワーとシーパワーの闘争の歴史を物語る極めて重要な地域となりました。

ロシアを動かす、ユーラシア主義


ここまで、地政学に関する基本的な部分を確認してきました。
ここからは、佐藤優『大国の掟 「歴史×地理」で解きほぐす』から多く引用し、ロシアの軍事行動の動機を探っていきます。


さて、ロシアを動かすユーラシア主義とはなんなのでしょうか?

ユーラシア主義とは、ヨーロッパとアジアの間に存在するロシアはユーラシア国家で独自の掟と発展法則を持っているという地政学的な思考です 。
佐藤優『大国の掟』、NHK出版新書、2016年、p. 14

とされています。

ここで重要なのが、ロシアにとっては「ウクライナはユーラシアに含まれる」という点です。ロシアは自国の国境周辺に自由に動ける緩衝地帯や衛生国を置いて安心したい、という思惑があります。ロシアは歴史的に、線ではなく「面」的な国境を意識しているということです。
そして、このユーラシア主義を下に、2015年にロシアを中心とした「ユーラシア経済連合(EEU)」が発足しました。現在の加盟国は、ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギスの5カ国です。これは、ユーラシア主義の延長線上にあり、EUよりも軍事色の強いユーラシア同盟です。


つまり、ユーラシア主義においてはウクライナはユーラシアに含まれているのに、ウクライナがNATOに加盟しようとしていることは、ロシアにとって地政学的に許せないと推察することが妥当だと考えられます。

北海道の地政学的宿命


さて、ここまで地政学についての基本的なことや、ロシアを動かすユーラシア主義について見てきました。
今回の記事の主軸は、地政学です。
ここからは、地政学を中心におきながら北海道とロシアの関係性を歴史的に見ていこうと思います。
日本がロシアを地政学的に意識するようになったのは、1792年のラクスマンの根室来航ではないでしょうか。
この時、ラクスマンは積極的な外交政策を行っていたロシア皇帝エカチェリーナ2世の命を受けて、ロシアに漂流し日本に帰国したがっていた大黒屋光太夫らを伴って根室に行き、江戸幕府に交易を申し入れました。
この時、徳川幕府の老中は松平定信でした。鎖国体制の真っ只中だったため、幕府は交易を拒否しました。


この時、彼は幕府から長崎入港の許可証を受け取ります。
1804年には、レザノフがこの許可証を持って長崎に来航するのですが見事に断られます。結局、ロシアと正式な交易関係を結ぶのは、1855年の日露和親条約、1858年の日露修好通商条約まで待たなければなりません。


ラクスマンの根室来航は幕府にとっては、かなりの衝撃だったことでしょう。ラクスマン来航から5年後の1799年には根室を含む東蝦夷地を幕府の直轄地にして、東北諸藩(津軽藩、南部藩、仙台藩など)に沿岸部の警備を命じています。
蝦夷地(北海道)は、この事件を境に「北方防備」という宿命を負うことになったのだと考えられます。まさにこれは、地理的条件によって運命づけられた地政学的宿命と言えるのではないでしょうか。

北海道とロシアの関係(明治初期〜日露戦争まで)


明治政府は、江戸時代から続く北方の脅威(ロシア) に対して、急ピッチに対策を講じていきます。まずは、樺太開拓使の設置です。
明治3(1870)年から1年間、北方の脅威を問題視したに政府は樺太にも開拓使を置きました。明治4年に開拓使に併合されて廃止されますが、開拓使樺太支庁という形で残ることになります。
実は、1855年の日露和親条約で、千島列島については択捉島と得撫島の間に国境線を引くことで合意していたのですが、樺太については国境線を明確に引かず、両国雑居地としていたのです。これは、世界史的にも稀で、まさにロシアの線ではなく「面」を重視する外交の現れと見ることができると考えらえます。
このように当時の樺太は両国雑居地でしたが、ロシアは軍隊を派兵し樺太の南端まで軍事的に制圧していたそうです。対して、日本は漁民が居住していただけだったため、北方の脅威に対して、北海道が防波堤の役目を果たしていたと見ることができます。
その後、明治8(1875)年、樺太・千島交換条約が結ばれ、樺太はロシア領、千島列島は日本領とされます。この裏側としては、当時の明治政府には広大な樺太を開拓できるほどの人や金銭的な資源がなかったために、漁業が主産業で大きな開拓をする必要のなかった千島列島を選んだのではないかと推測されます。
このように、北海道には当時の地政学的リスクである、北方の脅威に対する防備に加えて「士族授産(没落した武士階級の受け皿)」という明治政府の意向によって、2つの宿命を負うことになります。明治7(1874)年から30年間続いた屯田兵制の主目的も、「北方防備・士族授産」でした。詳しくは、札幌解体新書5時限目「行政」における解説をご覧ください。


さて、この状況を少し変えたのが
明治38(1905)年に終結した日露戦争だと考えています。
この日露戦争にも地政学が絡んでいます。
それは、明治35(1902)年から1923年まで続いた日英同盟と1904年に開通したシベリア鉄道(東清鉄道経由・モスクワ-ウラジオストク間)です。
マッキンダーは、「歴史の回転軸」はユーラシア大陸内部にあると主張しました。ロシアがシベリア鉄道を開通させたことで、ランドパワーがシーパワーより勝ることとなりました。これには、明治28(1895)年の日清戦争後の三国干渉を経て、明治31年にロシアが遼東半島の旅順・大連を清国から租借し、アジアにおける南下政策を推し進めたことも関係しています。
日本にとっては、戦争で獲得した領土を取られた挙句、ロシアの脅威がより大きなものとなりました。当時、シーパワーをもっていたイギリスは外交戦略上、ロシアのこれ以上のランドパワーの増大、並びにアジアにおけるシーパワーの増大を防ぎたいという思惑がありました。
このような地政学的リスクを勘案した結果、日本・イギリス両国の利害関係が一致して日英同盟が締結された、と見ることができます。
そして、明治38(1905)年、日本はポーツマス講和条約で、遼東半島・南樺太の支配権を獲得することになります。これにより、北海道における「北方警備」という役割は少し薄らいだと考えられます。
このように、北海道は当時の大国ロシアと地理的に近く、その脅威が目の前にあったからこそ、明治期には急速に開拓が進められました。北海道における近代資本主義がようやく確立しかけるのも、この日露戦争あたりになります。
ここまで触れてきた、明治期における樺太の歴史についてはコチラをご覧ください。

秋月(1993)「明治初年の樺太 - 日露雑居をめぐる諸問題」.pdf
https://note.com/api/v2/attachments/download/a8141f2a6ddb84679de7c0d7d53b2353

また、シベリア鉄道に関する詳細はコチラをご覧ください。


まとめ


ここまで、地政学そのものについて、それに纏わる北海道とロシアの関係性について見てきました。現在のプーチン大統領は、ブレジンスキーの地政学に基づいた軍事的行動をとっていると考えることが妥当なように思えます。
また、歴史的に北海道の役割が変わってきたことも確認しました。
次回は、日露戦争後の北海道とロシアの関係性について、この前行われた、富山さん・齋藤さん・木下さんのえぞトークで触れられた話題を交えて、より経済的要素を増やして見ていこうと思います。


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