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【#えぞ財団】連載企画「#この人、エーゾ」㉔有限会社希望農場・佐々木大輔さん~好きなことを仕事にできる人は少数。「好きな仕事にどう変換するか」の発想で可能性を広げたい~
えぞ財団
2023年1月4日
もがきながらも新たなチャレンジをしているひとを紹介する「この人、エーゾ」。今回ご紹介するのは、佐々木大輔さん。中標津町の農家の長男として生まれ幼少期から”後継ぎ”を意識するも、業界の様々な慣例や常識にはとらわれず農家、生産物、地域の価値の向上に向け、新たな取り組みや挑戦をしています。
目次
佐々木大輔:1970 年生まれ、北海道標津郡中標津町出身。北海道中標津高等学校卒業後、2年制の北海道立農業大学校 畜産経営学科へ進学。その後、20歳から実家の佐々木牧場で酪農に携わる。現在は、有限会社希望農場 代表取締役・中標津クラフトモルティングジャパン株式会社 代表取締役。趣味は「仲間たちと飯食って酒飲んで、とにかく未来のいろんなことを話すこと」
農家の長男として生まれ育ち、後継ぎの葛藤。
北海道の東部に位置し、北海道の中では比較的雪が少ない地域といわれている中標津町。大自然を存分に感じることができ、酪農が盛んな町として有名である一方で、羽田空港と新千歳空港の2路線に就航している根室中標津空港を有しており交通アクセスも良好な町です。そして空港から車で約15分のところには、佐々木さんが経営する有限会社希望農場があります。
農家の長男として生まれ、生まれた瞬間から将来は”後継ぎ”といわれていた佐々木さん。広大な自然の中で育ち、中学生くらいまでは「自分は将来農家を継ぐんだろうな~」となんとなく思っていたといいますが、ある日突然「農家なんてやりたくない!」という感情に変わったといいます。
「小さい頃はとにかく外で遊ぶ毎日で、友達と自転車で何キロも走って。本当は、野球をやりたかったけど人数が集まらなくて、剣道をずっとやっていました。当時はまだJRがあり、親には農業系の高校への進学を進められたんですが、片道1時間くらいはかかるので通いたくなくて。農業系の大学に行くということにして、高校は普通科に行きました(笑)ただ、その頃は世の中のこともわからず、後継ぎ以外の選択肢もなくて」と話します。
今は大人になって時代も変わりつつあって、職業選択の自由とか夢に向かって羽ばたくことの大切さとかが浸透しつつあると思いますが、「そもそも世の中にどんな職業があって、職業選択の自由というけど、そもそも選択肢がない子どもたちも多いかも」と感じるといいます。
佐々木さんは高校卒業後、農家以外の仕事にも興味を持ち、一時期は就職活動もしましたが、世の中にどんな仕事があるのかを知る機会が少なかったため、農家以外の仕事のイメージが湧かず、結果、北海道立農業大学校の2次募集を受験。見事合格し、実家を出て2年間の全寮制の学生生活が始まったといいます。
同じ境遇に立つ人たちと出会った大学生時代
「畜産経営学科の同級生は約30人で、もう一つの学科も同じくらいいて、1学年で60人くらいの寮生活。道外から来ている人もいて、同じ目的を持った同世代の人たちと2年間生活を共にしました。それまでは実家の農業しか知らなかったけど、大学に入って、酪農以外の農業を知ったという感じです」
大学では、部活にいくつでも入部できるルールがあり、ついに念願の野球をすることができた佐々木さん。野球のほかにも、バレーボールや屋外カーリングなど、とにかくスポーツにも夢中になった学生生活だったと楽しく語ってくれました。
「今振り返ると、親から2年離れて生活したというのは自分の人生の中で大きな出来事でしたね。それにあの時の仲間は今の僕の財産です」
経営者の最大の仕事は”喜んでもらえるビジョンを作り・進めて・最後に責任を取ること”
現在は、有限会社希望農場を経営されている佐々木さんですが、ものすごく専門的なことを学んで今の立場についたわけではなく、ある日突然社長になるタイミングが来たといいます。
「僕が農場経営を本格的に始めてから約10年が経過しました。ただ、ここまで来るには本当に複雑な経緯がありました。会社経営をして、大きな投資も随分していますが、現在は過去の経験のおかげで、それ以上つらいことはないだろうと。人生の最後が失敗だったとしても、とにかく前に進もうと思って。自分が生きている間に『どんなことができるか』ということを考えて、それを今ひたすらやっているだけなんです」と心境を語ってくれました。
そして、最終的にどのように経営を続けていくかを考えた時に辿り着いた答えが”自分のチーム”を作ること。具体的には、内部だけでなく、アウトソーシングを活用し専門的な仕事をしている外部の方々と一緒にチームを作り、そのような方たちに全体をデザインしてもらいながら経営をすることだそうです。そのほかには、20歳の頃からアメリカやヨーロッパの海外農業研修に参加して学んだ“複合経営”という手法があるといい、酪農と畑作の2つで経営を安定させているヨーロッパ型の農業を取り入れてみるということもその当時から考えていたそうです。
「農業の仕事を100%理解しているわけでもないし、どちらかというと最初は農業があまり好きではなかった。だからこそ、こういう人間がどうやって経営をしていくかをずっと考えて、ここまで来ているのかな。自分が持っていない能力を持った仲間たちと繋がって、いろんなディスカッションをする。僕は仲間に育ててもらったと思ってるんです」
”無料で牛乳を配る”というイベントで抱いた違和感
日本では毎年牛乳消費が落ち込む年末年始などに牛乳乳製品の消費拡大の取り組みが行われていますが、新型コロナウイルスの影響もあり、現在全国ではさらなる取り組みが急務とされています。佐々木さん自身も過去にJA北海道青年部協議会の活動をしていた際に消費拡大イベントに参加しており、当時の状況を話してくれました。
「青年部の大きな活動として、札幌の街頭に立って牛乳を消費者に無料で配るというイベントをしていました。ただ、正直心の中では『なぜコストをかけて生産しているのに、無料で配らないといけないんだろう』と。それでその時、牛乳はそんなに価値がないのかと思ってしまって」
この時の違和感がきっかけで、”牛乳を飲みながら食べたくなるもの”もしくは”牛乳を使っている食べ物”について考え始めた佐々木さん。その結果、中標津町の気候では難しいといわれていた『小麦』を栽培することを決め、挑戦が始まりました。
「自分たちの生産物に価格をつける。それは畑に種を蒔くことから始まる」
「中標津で小麦を栽培したという前例はなく、周りからも難しいだろうといわれていました。でも、そんな状況の中で栽培1年目から小麦ができたんです!中標津ではできないと言われていたものが『できる』という証明もできました。ものすごく嬉しかったです」
品質や量については改良が必要な状態だったといいますが、ご縁が繋がり、すぐに佐々木さんの作った小麦を使ってくれる会社が見つかったそうです。
「最初は赤字覚悟でしたが、中標津にあるパン屋さんやラーメン屋さんの方々が『中標津産の小麦』を求めていたことが、だんだんわかったんです。『中標津産〇〇』という差別化した商品を一緒に作ることができる仲間もたくさんいることに気づき、念願の大きなチームができることがわかりました」
前例がないことでも前に進めば何かが起こることを確信した佐々木さんに、さらに奇跡が起こります。
必死で探した”大麦の種”から受けた予想以上の恩恵
「食文化にはやっぱり『お酒』がほしかったんです。最初はワインかなと思って、ぶどう栽培についても模索しましたが、断念して。ぶどうを諦めて何ができるのかを考えた時『小麦ができたから大麦もできるんじゃないか』って思って。ただ、大麦の種を探すのに1年以上かかりました。本当に必死でした。そして、いきなり種を蒔いてみたら、牧草地だから土の中に栄養素がずっと溜まっていたということもあり、ものすごく良い大麦ができて!」
大麦ができたことで”お酒造り”という目標に一歩近づいた佐々木さん。最初はビール造りからのスタートだったといいます。
「実はご縁があり、小樽ビールさんに委託をして中標津産のビールを造ることができたんです。1回目で330mlの瓶に入ったビールが自宅に8000本届きました。ただ、酒類販売業免許がなかったので仲間の酒屋さんで販売をさせていただいて。賞味期限が2ヶ月ということもあり、赤字でしたが『中標津で大麦ができたらお酒を造ることができる』ということを証明したくて。そのためにまずは2回造りました」
会社の経営状況のことも考え、一旦ビール販売をストップした佐々木さんですが、その時から”中標津産の大麦をどういう風に文化に取り入れていくか”ということを改めて真剣に考え始めたそうです。
地域全体の経済力を上げるための起爆剤”中標津産ウイスキー”
2018年に中標津クラフトモルティングジャパン株式会社を設立した佐々木さん。町の中心部から約15分のところにある根室中標津空港という大切なインフラを守ることにもなる”中標津産のウイスキー”を造ることを決意します。
「JRがないということもあり『空港というインフラを守るためには?』を考えました。例えば『飛行機を降りたらウイスキーが飲める町』にできたら、すごく楽しくないですか!?ウイスキーは世界共通のお酒で、世界中の人に評価してもらえるクオリティのものを造れたら、町全体の経済活動を循環させられると思うんです。だからウイスキーは農業者の夢だと僕は思ってます」
中標津限定の希少価値のある商品を作ることで町全体の底上げができることを見据え、中標津からものを輸送するのではなく、中標津という場所に来てもらうという流れを作る。そして、”美味しいものはお土産として買ってくれて、また中標津をリピートしてくれる”というイメージができているとも笑顔で話してくれました。
「ここまで来ると、もう農家ではなくなるかもしれませんが(笑)いろんな業界の仲間と繋がっているから、面白いことが連鎖してでき始めている感じですね。ウイスキー造りの仲間とは『全員が生きている間に10年熟成を完成させよう』という話をしながら、今がんばっています」
「農業に関わってみたい」と言ってくれる子どもたちを増やすための取り組み
最近は、小学校の授業を受け持ったり、学生へ向けて職業講和の講師を務めたりと多岐に渡り活動をされている佐々木さん。”農業がどれだけ素晴らしい仕事か“ということを説明しながら、”農家は食料という命を繋ぐものを作ってるんだよ”ということをご自身の言葉で発信されています。
「地方で子どもたちが自信を持って暮らせる仕事がなきゃいけないんです。だけど、こういう地方の主産業って農業が多く、今までの政策や組織で進めようとすると、いわゆる家業になってしまい、なかなか第三者が参入できないような業界になっていたりして。あちこちで『将来の担い手の確保を』と言われていますが、とにかく農業の切り口を増やしてあげることをしたいと思っています。なので、ウイスキーのような商品を作り、関連する雇用を増やし、職業の選択肢を作ってあげたいです」
佐々木さん自身も元々牛が好きで酪農を仕事にしたわけではないという経緯もあり、もしあまり好きではない職業に就いたとしても、”どうやったらやりがいを見いだせるのか”や”社会にどれだけ役立つんだろう”という疑問を自分なりに深く掘り下げることが大切ということも話してくれました。
今後の佐々木さんのストーリーの続きが気になります!
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