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- 【#えぞ財団】連載企画「#この人、エーゾ」㉕羅臼町役場・坂本勇介さん~成功体験をシェアしながら羅臼の新しい未来を創造する。「町民がいつまでも”贅沢”に暮らさる町」にしたい~

【#えぞ財団】連載企画「#この人、エーゾ」㉕羅臼町役場・坂本勇介さん~成功体験をシェアしながら羅臼の新しい未来を創造する。「町民がいつまでも”贅沢”に暮らさる町」にしたい~
えぞ財団
2023年1月21日
組織のなかで、マチのなかで、もがきながらも新たなチャレンジをしているひとを紹介する「この人、エーゾ」。今回は、羅臼町役場税務財政課の財政担当係長・坂本勇介さんをご紹介します。羅臼町で生まれ育った坂本さんは、人口や基幹産業である漁業の収穫量が減少するなかでも、「町民がいつまでも豊かに暮らせる町」を目指し、新たな町の魅力づくりに奔走しています。地方公務員として生きる信条と葛藤、今後の町づくりにかける思いについて聞きました。
目次
坂本勇介:1988年生まれ。羅臼町出身。2007年に羅臼町役場入庁。税務課や環境関連部署に配属後、知床羅臼町観光協会への民間出向を経験。現在、財政担当係長として羅臼町の「持続可能な財政構造構築」を目指して奮闘中
野球に没頭する学生時代。祖父と恩師が導いてくれた地方公務員への道
「今、役場では町の財政を担当しています。性格や仕事のスタイルが行政マンっぽくないせいか、町ではフリーランスと呼ばれることもしばしばです」
現在の仕事について尋ねると、坂本さんは冗談交じりにそう話を切り出しました。それまでの常識に囚われず自由に発想し、ブルドーザーのように力強く新しい事業を進めていく――。そんな“スーパー”な公務員である坂本さんを、周囲は敬意と驚きを込めて「フリーランス」と呼んでいます。
北海道根室管内にある羅臼町は、世界自然遺産・知床など世界有数の自然に囲まれています。羅臼昆布、秋鮭、ホッケ、スケソウダラ、エゾバフンウニなど多種多様な海の幸にも恵まれた漁業の町であり、クジラ・シャチ・イルカなど海洋生物、また流氷や野鳥を観察できる観光船クルーズは町の代名詞になっています。
1988年生まれで今年34歳となる坂本さんは、そんな自然資源が豊かな羅臼町で生まれ育ち、羅臼高校を卒業後、羅臼町役場に入庁しました。「町から出ることは1回も考えたことがない」という言うほどの生粋の“羅臼っ子”です。
小・中・高校と学生時代は野球に熱中する日々を送り、高校進学時には複数校からスカウトが来るほどの名選手として活躍します。実家はホッケ、スケソウダラを捕る刺網漁や昆布漁を営む漁師の家系。「小さい頃から船に乗って手伝いをしていた」という坂本さんは、「自分も高校を卒業したら自然と漁師になる」とどこかで感じていたと言います。
「恥ずかしいですが高校生の頃は特に目標がなく、将来の事もそれほど考えていませんでした。今のキャリアに導いてくれたのは当時の野球部の監督。『役場を受けろ』と言ってくれたことがきっかけで入庁することになりました」坂本さんが地方公務員として生きる決心を固くしたもうひとつの理由に、尊敬してやまない祖父の言葉がありました。漁師として後を継がず公務員になると報告しに行った時、祖父は「やるなら一番になれ」と快く後押ししてくれたと言います。「公務員であっても常に新しいことに挑戦していく。そんな働く姿勢は、漁師として黙々と働く祖父の背中から学び、受け継いだものです」
転機となった民間事業者・知床羅臼町観光協会への出向
役場に入庁した坂本さんは、最初の配属先である税務課から環境関連部署に転属となり、町の重要なイシューである世界自然遺産や地域環境衛生を担当することになりました。大きな転機を迎えたのは24歳の頃。町では当時、観光事業を基幹産業として育てるというミッションを掲げていましたが、坂本さんはその実現のために民間事業者に派遣されることになったのです。知床羅臼町観光協会に出向した人材は、後にも先にも坂本さんただ一人です。
出向先である知床羅臼町観光協会は、町の観光事業のすべてをプランニングしている羅臼観光振興の最前線でした。坂本さんはその3年間にわたる民間出向時代に「“やりたいを形にする力”を身につけた」と言います。
「知床羅臼町観光協会では、地域の若者たちと一緒に羅臼昆布の魅力を伝える『しれとこ羅臼こんぶフェスタ』を企画するなど、さまざまな実験的な取り組みに挑戦しました。地域の人たちと一緒に10年後の羅臼を考える。そんな思いでさまざまなプロジェクトを実現していく過程で、多くのことを学びました。僕は『常に想像し、行動へと変えていく』という仕事に対するポリシーを持っていますが、そのスタイルが確立していったのも観光協会に出向していた時期です」
役場に戻りふるさと納税プロジェクト立ち上げ、官民連携で成功。その後社会教育担当から財政担当へ
ふたたび役場に戻ったのは27歳の時。次に配属されたのは新設された町づくり課でした。当時はふるさと納税の駆け出し時期だったこともあり、坂本さんは民間時代の経験を活かして、ふるさと納税プロジェクトの立ち上げや官民連携事業を担当することになりました。「地域の水産加工会社と膝を付け合わせて議論を繰り返した結果が、羅臼町のふるさと納税事業の成功につながった」と坂本さんは振り返ります。
その後、教育委員会の社会教育担当として、全世代を対象にした人材育成事業においても着実な実績を残した坂本さんは、2022年4月から財政担当として町の抜本的な財政改革に取り組んでいます。
「羅臼は漁業の町として、昭和の終わりには250億円を超える水揚げを誇っていました。しかし現在は、およそ70~80億円ほどまで落ち込んでいます。税収減や人口減少に伴う普通交付税の減額が進むなか、町財政をいかに存続させていくかが大きな課題になっています。ただ耐えながら貯金を切り崩すように生活していくだけでは、いずれ限界が来るでしょう。減から増にどう切り替えていくか。町の産業構造だけでなく、自治体としてのマインドや組織の在り方まで含めて、抜本的な構造改革を進めています」
羅臼では漁獲量の減少という課題を前に、育てる漁業に切り替えて漁業を営む漁業者や、陸上養殖の可能性を模索する担い手世代も登場しています。また漁業だけでなく、他分野においてもこれまでにない動きが増えるなか、「変革を発掘、後押ししながら伴走していくことが行政の仕事であるべきだ」と坂本さんは語ります。
「1965年頃に約8000人だった町の人口は、現在4000人台まで減少しています。そのような環境のなかで、羅臼の魅力を1人でも多くの人に伝えていきたいと考えています。移住政策以前に、まず人と人と繋がって町のことをとにかく知ってもらう。そんな目標で全職員が一致団結して業務に邁進しています」
羅臼町が官民一体で成し遂げたスノーピーク社誘致
羅臼の新しい魅力を生み出す。そんな坂本さんや羅臼町役場職員の新たなマインドセットの集大成のひとつが、2021年10月に締結されたキャンプ用品メーカー大手・スノーピークとの地域活性化に向けた包括連携協定でした。
世界でも指折りの自然資源に恵まれた羅臼には、アウトドパーソンに響くコンテンツやロケーションが豊富に存在します。「きっと町の新たな武器になるはず」。そんな職員間の会話から、町としてアウトドア事業を展開していくことを決めました。坂本さんたちはボランティアとともに廃業したスキー場を整備し「知床羅臼野遊びフィールド」を設置。官民一体となって、アウトドアの町としての魅力づくりに奔走する日々を過ごしました。
【インタビュー映像】 2021知床羅臼野遊びフィールド|想いが詰まった旧町民スキー場から野遊びフィールドへ。生まれ変わりの軌跡。
「スノーピークとの提携が持ち上がった時、『一部上場企業に小さい町役場だけど負けるわけにはいかない。圧倒するぞ』というメッセージを庁舎内に出しながら事業を進めてきました。大きな企業・ブランドであっても、理念が通じなければ一緒に仕事をすることはできません。地域を絶対に安売りせず、ビジョンをしっかり形にしていくという気持ちを職員同士で育んできました。そうして実現したスノーピークとの連携は、僕の公務員としての仕事のひとつの集大成であり区切りとなっています」
町やロケーションのストーリーを丁寧にスノーピーク社に説き続けた結果、その熱意とビジョンが伝わり、新たな町づくりのパートナーとして一緒に活動することが決まりました。今後はスノーピーク社とともに、知床羅臼野遊びフィールドの魅力向上やプロモーション強化を推進しつつ、町のロケーションや地形を活かしたサステナブルな野遊びコンテンツの開発、羅臼町の海産物の活用などとの連携も視野に入れていくとしています。
動き出しから3年。知床羅臼野遊びフィールドの運営は、今年から民間に委託することも決まりました。役場がしっかり汗をかき、地域の人が興味を持ち、気づきを得てビジネスとして参加する。当初、坂本さんたちが描いたゴールが実現することになったのです。
町やロケーションのストーリーを丁寧にスノーピーク社に説き続けた結果、その熱意とビジョンが伝わり、新たな町づくりのパートナーとして一緒に活動することが決まりました。今後はスノーピーク社とともに、知床羅臼野遊びフィールドの魅力向上やプロモーション強化を推進しつつ、町のロケーションや地形を活かしたサステナブルな野遊びコンテンツの開発、羅臼町の海産物の活用などとの連携も視野に入れていくとしています。
動き出しから3年。知床羅臼野遊びフィールドの運営は、今年から民間に委託することも決まりました。役場がしっかり汗をかき、地域の人が興味を持ち、気づきを得てビジネスとして参加する。当初、坂本さんたちが描いたゴールが実現することになったのです。
スノーピークと世界自然遺産の町 北海道羅臼町が『観光振興および地域活性化に関する包括連携協定』を締結
「孤立しないこと」が地方公務員として成果を生む秘訣
多くの実績を築き上げたてきた坂本さんですが、生まれ育った町で公務員としての道を歩むなかで、悩んだり、迷ったりすることはなかったのでしょうか。そんな質問に対し、「正直、揺れたことも少なくなかった」と坂本さんは率直に語ります。
「役場の仕事は年功序列で、やってもやらなくても給料は変わりません。目標がはっきりしないもやもやした空気感が漂っていて、なんとなく流されてるいる感じがして嫌になることも少なくありませんでした。漁師は捕ったら捕った分だけ稼ぎになる。漁師の家に生まれ育った僕としては、正反対の環境が性に合わない気もしていました」
そんな揺れる心を支えたのが、野球を通じて培った経験や習慣でした。「20代前半はかかってこいスタイル」で働いていたという坂本さんは、野球と同じように「他の人と同じ仕事しない」「ベースの仕事+αを生む」ということをいつも自分の仕事の信条にしてきたと言います。
「泥臭く、人の何倍も努力しないと成果はでません。それは野球が僕に教えてくれたことです。体当たりでぶつかっていくうちに、町の中で転機にも恵まれた。そして経験を積むうちに自分の中だけで葛藤していてはダメで、周囲に耳を傾けるべきだと考え始めるようになりました。20代中盤からは、新たな人との出会いが自分の生活や仕事をより豊かにしてくれることにも気づきました。人との繋がりを意識し働くうちに自然とコミュニティが生まれて、支えてくれる方々も徐々に増えていきました」
若い職員が尖った新しいことをしようとすると、必ずといっていいほどハレーションが生まれる。坂本さんは役場で仕事をしながら、小さな町ならではのしがらみを常に肌で感じてきたと言います。そして状況を打開していくためには、何より「孤立しないこと」が重要とも。
「僕は羅臼町役場の中では最年少の役職者です。提案型で仕事を持っていくことも多いですが、その際に最も気をつけてるのは『最初の一歩から1人でやらない』ということ。自分も周りも生かす仕事をしようと常に心掛けています。どうせハレーションを受けるのであれば、最初に大きなハレーションを受けてでも最終的には小さなハレーションになり、その葛藤を繰り返すなかで、みんなが進みたい方向が少しずつ見えてきます。そんなチームビルディングも僕がやるべき仕事のひとつだと考えています」
成功体験をシェアしながら羅臼の新しい未来を創造する。「町民がいつまでも”贅沢”に暮らせる町」にしたい
坂本さんには、仕事をする上での信条がもうひとつあると言います。それは「自分が成功して良い体験をすることが、他人や町のためになる」というものです。
「お腹いっぱい食べた人じゃないと他の人に分けてあげられませんし、お金もいっぱい稼いだ人じゃないと快く分けてあげようと思わないはず。仕事も一緒で、僕は自分が精一杯成功しようという思いでこれまでやってきました。きっと20代の頃にがむしゃらに仕事していなければ成功体験も得ることができなかったし、今の自分はなかったと思います。30代中盤を迎えようとしている今、次は自分の成功体験をシェアしながら、喜びややりがいを分かち合う方法を模索していこうと考えています」
羅臼町をこれからどういう町にしたいか。最後の質問に対し、坂本さんは「町民みんながいつまでも“贅沢”に暮らせる町」という明確な答えを持ち合わせていました。
「人口も水揚げも減ったため、同世代のなかにも漁師をやめて札幌に出る人がいたり、他の街に移り住む人も増えてきました。きっと人口減少は今後も進むでしょう。ただ人が減ったから悲観するのではなくて、3000人になっても2000人になっても、経済的・精神的に豊かに暮らせる町で在り続けられるよう、新たな羅臼の魅力をどんどん生み出していきたいです。僕は羅臼町と関わることで転機をもらい、苦しみも喜びも経験してきました。それは地方公務員にとっての本分だと思っています。今後も羅臼町に根を張りながら、改革に取り組んでいきたいです」
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